トイレに立った彼の元に注文した料理が運ばれた。

 厚切りステーキ。
 彼のイメージそのままの野獣感溢れる料理にフッと笑みをこぼした。

「彼氏さん。
 よっぽど彼女さんが好きなんですね。」

「え?」

 しみじみ言われた店員さんの言葉に「彼女でも彼氏でもありません!」と、否定することも忘れ、店員さんの顔をまじまじと見た。

「ご来店いただいた時に「連れが先に来てるはずなんだ。その、可愛らしい子なんだが」って頬を赤らめて言われたので、こっちまで照れちゃいますよ。」

 何…それ。

「そう言いたくなるの分かります」ってお世辞まで付け加えて店員さんは去って行った。

 入れ違いで橘さんがやってきて「なんだ。顔が赤いぞ」とからかいの言葉を投げられた。

 誰のせいだと思ってるのよ。
 今しがた置かれた厚切りステーキを豪快に食べる橘さんを睨みつけたくなる。

 文句を言いたい気持ちは橘さんが続けた言葉に口から出ることはなかった。

「今の店員みたいなのが好みなのか?
 そりゃそうか。
 俺より宮崎の方がいいんだもんな。」

「そうですね。
 橘さんよりタイプかもしれないです。」

 八つ当たり半分に言うと悲しそうな瞳と目が合って胸がチクンと痛くなった。