お店を出て、隣を歩いていた橘さんが顔を覗き込んだ。
 腰を曲げて覗き込んだ橘さんの顔は半分逆さになって眉を下げている。

「ごめん。また俺、突っ走ってる?」

「突っ走ってるも何も……。」

 前みたいに今度は「俺達、結婚するでしょ?」って言われてもないようなことを口にされちゃうわけ?

 橘さんに妄想癖はないって思っていたけど、ここまでくると……。

 私の動揺を感じ取ったのか軽い笑いを吐いて「疲れさせちゃったな。帰ろう」と橘さんは手を引いた。


 マンションに戻ると玄関に入るや否や抱きしめられた。
 私も橘さんにつかまっていないと緊張やら何やらで足がガクガクしていた。

 その私にちっとも安心できない言葉が囁かれた。

「キス……したい。」

 囁くように言った橘さんは体を屈めさせて私の返事は待たないまま唇を重ねた。
 もう私はオーバーフローで頭がパンク寸前だ。

「ちょっと抱きかかえるぞ?」

 珍しく断りを入れた橘さんに抱きかかえられて私はどうしてか寝室へ運び込まれた。

 そ、れは、それで変な緊張が………。