「君も私のことが忘れられないから側で働き続けてくれているのでしょう?」

 詩子は何も言わない。
 分かっていたことだけど。

 真野さんを見てると当時の君を思い出すんだ。

「私は、患者だったから診察していて情が移ったという簡単な理由では人に惹かれたりしないし、別れた恋人を側に置き続けるほどお人好しでもない。」

「じゃお暇………。」

 上ずった声を出した詩子に頭を振る。

「そうじゃなくてですね。
 如月薫としての俺は詩子とヨリを戻したくて手放したくないから側に置いておくくらい周到な男だよ。」

「先生………。」

「そこは薫って呼んでよ。」

「……もう次の患者さんがいらっしゃいます。」

「ハハッ。分かった。
 如月先生に戻らないとね。」

 いつもと変わらない詩子の対応に乾いた笑いを吐いた。

「はい。
 お話は診察が全て終わられてから。」

 その言葉に顔を上げると、次の患者を受け入れる準備をする詩子は顔を背けていて、その耳が微かに赤いことに気づいた。

 私も、当事者のことはなかなか分からないらしいな。
 そんな感想を浮かべて笑みをこぼした。

「フッ。そうだね。そうするよ。」