真野さんが去って行くと受付の詩子が準備の為に診察室へ戻ってきた。
 私はすぐ近くに立っている詩子に独り言のように呟いた。

「どうだろう。
 どうやら私は患者さんに横恋慕しないようなんだ。」

「そう見えるようですね。
 まさか真野さんの恋の応援をされていたとは驚きです。」

 驚いている様子は露ほど見せず驚きを口にする詩子に軽い笑みをこぼす。

「あぁ。真野さんが通い始めた頃を君は知らなかったかな。」

「最初から真野さんがあの橘さんのことが好きだとお分かりに?」

「さぁ。それはどうでしょう。」

 誤魔化すと珍しく詩子は不服そうな顔をした。
 楽しくなって私はほんの少しだけ言いたかったことを告げる。

「真野さんのように当事者は自分のことが案外見えなかったりするものだと思うよ。」

「……そうですか。」