「それは、先輩のお陰かな?」

「えっと、はい。そうです。」

 胸の苦しさの半分は橘さんへの恋心だと自覚した。

 あと半分の、人が怖くて胸が苦しくなるのは、その人のことをよく知らないから怖いみたいだ。
 その部分に折り合いをつけていくことが今後の私の課題。

 橘さんへは恋心で胸が苦しくなることはあっても、対人恐怖症ではない。
 それが分かっただけでも怯えずに済んでいる。

 出掛けずに2人でいる時は薬を飲まないでいられるか、橘さんに付き合ってもらっていた。
 ゆっくりと辛抱強く付き合ってくれる橘さんに助けられていた。

 私の報告を静かに聞いていた如月先生は「そう、ですか」といつもの柔らかな微笑みを向けて「では、何もなければ次の診察は1ヶ月後にしましょう」と紋切り型の台詞で締めくくった。

「はい。ありがとうございました。」

 診察は全て終わり、出て行こうとすると呼び止められた。

「真野さん。」

「はい。」

 手を体の前で握っている如月先生が診察とは少し毛色の違う質問をした。

「医師としてではなく、如月薫として質問したいのだけれど。」

「……はい。」

「真野さんから見て、如月薫という男はどう?」

 真意がつかめなくて、目をパチクリして質問を返した。

「どう……とは。」

「医師としての立場を忘れて患者に横恋慕するような男だとしたら?」

 思わぬ言葉に声を詰まらせて私は如月先生を探るように見つめた。
 それは、私へ、という意味だろうか。