「自分では優しい人がタイプだと思っていたんですけど。
 その、橘さんは傍若無人で尊大な人だと思っていたので。」

「ひでぇ言われよう。
 まぁ遠からずだけど。」

 橘さんは軽い笑いを吐いて「俺より宮崎を選んだ時は抉られたわ」とぼやいた。

「それは、だって。
 見るからに宮崎さんの方が優しそうじゃないですか。
 でも見た目だけに囚われてたなって今なら分かります。」

「……そう。」

 強面な顔が笑うと柔らかいことも、叱ることは愛情があるからこそ出来るってことも。
 橘さんのことを知ったからこそ分かったことだった。
 
「原因……。」

「ん?うん。」

「私が対人恐怖症になった原因というより、きっかけなんです。
 きっかけは橘さんの怒っている姿を見たからですけど、その頃は自分の中で何かがギリギリだったんです。」

 入社してがむしゃらに頑張っていた1年目。
 頑張っても空回っているような気がしていて、人への苦手意識が消えなかった。