「あの、クッション……。」

「あぁ、でもこの方が真野を見上げられて新鮮だな。
 このまま真野がいてくれるのなら、ラブソファでも買わないとな。」

「ラブ、ソファって……。」

「いや、変な意味じゃないぞ。
 2人掛けソファをそう呼ぶんだ。
 って、何、俺、焦ってんの?
 やましいもの見つけられたみたいな気分だわ。」

 慌てふためきようが面白くて、ふふっと笑うと肩の力が抜けた。
 やっぱり橘さんはすごいや。

「大切にするよ。」

 手を取られ、そっと手の甲にキスをされた。
 それはお姫様に騎士が敬愛のしるしにするキスのようで。

「だから、ですか?」

「何が?」

「永島さんに「もう名前で呼ぶな」って言われたのは。」

 私の言葉を聞いた橘さんは動きを止めると軽い笑いを吐いて「あいつ余計なことを……」と呟くように言った。

「真野が大事だからな。
 俺、ガサツだから、色々と気づけないみたいで。」

「そんなこと、ありませんよ。」

「けど、引っかかったから言ったんだろ?
 別に俺は誰からなんて呼ばれても構わないし、2人で会ったって、泣くのに少しくらい胸を貸してもなんとも思わないけど。」

 橘さんは私の手を取って、その手に自分の手を絡めた。

「真野が嫌ならもうしない。」