「いや、えっと、悪い。
 俺から話を振っておいてなんだけど、、、ハゲそう。」

「ハゲ……え?」

「いや、うん。
 俺、自惚れることにするわ。」

 朝食を運んでいた私の腕を引いて、橘さんは私を捕らえた。

「あ、あの。触れない、約束、は?」

「ん?ショック療法?」

「だ、ダメです。本当にまた橘さんのこと怖くなったら……。」

「それは立ち直れないかもなぁ。俺。」

 困ったことばかり口にする橘さんは私を腕の中に捕らえて抱きしめた。

「夜だけか。俺に触れたくなる反動。」

「えっと、それは……。」

 困っていると少しだけ解放されて隣に座らされた。
 今は人の視線よりも近過ぎる距離の方が心臓に悪いみたいだ。

 早急に、隣じゃなくて向かいの席に座りたい心持ちになっていた。

「まぁいいや。
 今日はさ。お泊り出来る用意をしておいで。
 ポストの鍵、真野にあげるから。」

「や、そんな。」

「いいから。
 毎日会う約束。結局、果たせなかったし。」

「……橘さんから触れない約束は?」

「分かった。触れないから。」

 やっと完全に解放されて私がじりじりと距離を取るとフッと笑われた。
 なんだか私だけ余裕がないみたいで面白くない。