「おはよ。真野、朝早いんだな。」

 まだ眠そうな橘さんが起きてきて座椅子に腰を下ろした。

「おはようございます。
 朝は食べない派ですか?」

「ん……食べない派というか、食べる時間がない派?
 前に持ってきてくれた食材、ダメにしちゃってな。悪かった。」

 全く料理はしないのか、単に時間もないのだろう。

「いいえ。お肉やお魚は冷凍庫へ避難させてくれてあったので無事でしたし、お野菜も使えそうなのもいくつか……。」

「いいな、こういうの。」

「何が…ですか?」

「いや、他人が家にいるなんて邪魔くさいと思ってたけど、案外いいもんだなって。」

 甘いことを口にする橘さんに「へ、変なことを言うと動悸がするので」と訴えた。

「あのさ。」

 橘さんは頬づえをついてこちらを見据えて考えもつかなかったことを口にした。

「自惚れた発言すると。
 それ、対人恐怖症じゃなくて、俺のこと好きだからじゃなくて?」

 心臓がドキンとジャンプして穏やかだったはずの鼓動が速まっていく。

 薬は飲んだ。
 偽薬だけど、私には効いていて……。

「ごめん。変なこと言ったな。
 よく知らないのに知った口……。」

「いえ。
 その、もし、橘さんが言った通りだとしたら、どうやって治すんですか?それ。」

 ブッと吹き出した橘さんが目を丸くしてまじまじとこちらを見た。