ひとしきり抱きしめられると、その腕が緩んで私の顔を撫でた。
 大きな手が顔にかかる髪を後ろへ梳かして、そのまま添えられた。

 自然に顔が近づいてきて唇が触れる。
 優しく触れては離れて数度重ねられた。

「歯止め、効かないかも………。
 まずい、よな?」

 艶っぽい少し余裕の無さそうな声で言われて、急に鼓動が速まった気がした。
 夢見心地で寝ぼけてて、とんでもないことを言われているのに温もりが心地よくて突き飛ばせない。

 胸元に顔をうずめると少しだけ本音をこぼした。

「キスも…初めてなのに。」

「……え?」

 言葉を失った橘さんの体がこわばったのが分かった。
 それから息を吐いた橘さんがもう一度、抱きしめ直して呟くように言った。

「驚きと嬉しいのと意味が分からなくなって吐きそう。」

「だ、大丈夫ですか?」

「いや、うん。ごめんな。
 完全に起こしちゃったな。
 寝ぼけてる真野、可愛いけど……起きてても可愛いしな。うん。」

 よく分からない納得を1人した橘さんが神妙な面持ちで改まって話し始めた。