「その……1年くらい前。
 健太さんにすごい勢いで怒っている橘さんが恐ろしくて。
 元々、強面で大柄な人で苦手だなって思ってたから、余計に怖くて。」

 顔が見れなくて俯いたまま話した私に橘さんは私の言葉を受け取って続けた。

「……それで、薬を飲まないといけないくらいになった?」

 静かにそう言った橘さんに小さく頷いた。

「俺、んっとに大馬鹿者だな。
 ごめん。ごめんな。」

 私の向かいには座らない気遣いに、触れない距離感。
 心地いいはずなのに、橘さんといるとその距離が………。

「橘さんはちゃんと私を気遣ってくれて、触れない距離感を保ってくれています。」

 だから何なのか。
 何を言おうとしてたのか、私が次の言葉を言う前に橘さんが軽い笑いを吐いた。

「勘違いするな。
 真野との約束もあるが、俺はこれ以上近づくと手を出しそうだから控えてるだけだ。」

 手を、出しそうって!

「威張って言うことじゃないです!」

「本心を言ったまでだ。」

 どこか吹っ切れたように言う橘さんに信じられない思いだった。