「悪かった。来て。
 健太と楽しそうだったな。」

 健太さんは帰ったのに、橘さんは当たり前のように私の向かいではなく隣へ座った。
 私が人の視線が苦手なことへの配慮だと思う。

 健太さんは平気だったのに、橘さんと向かい合って座る勇気なんて私にはなかった。
 特にあんな場面を見た直後に。

 せっかく健太さんと話していて忘れていられた給湯室の光景が本人を前にすると嫌でも思い出してしまう。

「……それはもう。悪口大会で。」

 私はわざと嫌味っぽく口にした。
 橘さんは軽い笑いを吐いて前にも指摘したことを再び指摘する。

「意気投合してた。
 呼び方も葛木さんじゃなくて健太さんだしな。」

「だからそれは、橘さんがいつも健太って呼んでるからで………。
 それを言うなら橘さんは永島さんに……。
 いえ。なんでもありません。」

 顔を勢いよく上げた橘さんに口を滑らせてしまったと気づいても遅かった。

 自分からこの話題を振るなんてどうかしてる。
 ううん。いっそのこと知ってるんですからね!って言って、だから私をからかうのをやめてくださいって言えばいいのかな。

 開き直ってそう口にしようとしていた私に橘さんはどうしてそうなるの!ってつっこみたい台詞を平然と口にする。