「俺は考えなしの大馬鹿野郎だ。」

 急に自分のことを大馬鹿野郎という橘さんに些か驚いた。
 橘さんは続けた。

「病気……なのに、そんな真野に無理矢理キスしたし、抱きついた。
 職場の奴らと馴染んでる、なんて軽々しく…。」

 私はなんて言っていいのか分からなくて黙っていると「もうそんなこと二度としない」と切なくなるような声で言われた。

「資料室への手伝いを頼んだ時。
 真野、迷惑そうな顔してた。
 仕事中だし公私混同かって反省した。
 それに真野との距離感がつかめなくて。」

 グラスになみなみと注がれている水を喉に流し込んだ橘さんは続けた。

「近づけば、触れたくなる。
 だから、なんでもないフリをして。
 ずっとだ。
 真野のことが気になり始めた頃からずっと。
 気持ちがこぼれ落ちないようにわざと素っ気なくしてた。」

 橘さんは息をつくと力なく続けた。

「それで酒の力もあって気持ちが決壊して暴走したって、ただの言い訳だよな。
 ごめん。」

 掠れて今にも消えそうな声。
 私はただ隣にいることしか出来なかった。
 ここからは橘さんも黙ってしまった。