現在二十四歳の王太子、テオフィルス・ド・キリリシアには、正妃はおろかいまだ婚約者すらいない。

 本来王太子といえば、若いころからあちこちの貴族が先を争って娘を妃に、と名乗りを上げてもおかしくない。それなのにいまだそんな状態なのは、彼が非常に病弱であるためだ。
 以前は父王の公務についてくる幼い王太子の姿をみることもあったが、テオフィルスが八歳の時に王妃が病気で身罷られたころからその姿は見えなくなり、今では、王宮の人間ですら王太子に会うこともなくなった。

 キリリシア王国では、二十五歳で未婚の王太子は王位継承権をはく奪されてしまう。テオフィルスの次に王位継承権を持つのは、彼のいとこにあたるウィンフレッド・ケンドールだ。テオフィルスが存命の今は表だって行動はできないが、水面下では、歳頃の娘を持つ貴族たちがウィンフレッドに取り入ろうと躍起になっていることだろう。