「すぐに血液検査をします。その結果、どんな麻酔でもフィオナちゃんは大丈夫なのか、あるいは、どんな麻酔であれば、耐えられるのかを判断します」

 院長は、検査の結果次第では、全身麻酔をかけて内視鏡で取り除く説明もした。

 明朗快活に丁寧にわかりやすく話して、オーナーの質問にも、同様の院長の表情にオーナーが安心した様子。

 オーナーの同意を得てたから、すぐに採血して、私は血検をおこなう。

 院長は、そのままフィオナをあずかり、入院室に連れて行き、院長の説明を受けていたオーナーは、受付で事務手続きをして帰った。

「フィオナの血検結果に、異常はありません」

「了解。胃中で竹串が留まっている、しかも刺さっていない。やはり、これなら開腹しないで内視鏡でいける」

 さっきの二人の予想が当たった。

 レントゲンと超音波で異物の確認ができた院長が、全身麻酔下でおこなう内視鏡手術のため、すぐに注射の麻酔を打って眠らせる。

「フィオナ、いい子ね。これから院長が、痛いのや危ないことを取り除いてくれるから、楽になるよ、よかったね」

 だんだん、意識が遠のいていくフィオナに声をかけて、そっと前肢を撫でる。

 麻酔が効いて十分ほどで眠りにつき、ガス麻酔に切り替えて、フィオナにガスマスクを装着する。

「呼吸リズム正常です」
「了解。ごめんな、女の子なのに」

 腹部の毛を刈りながら、眠るフィオナに声をかける院長の脇で、ハンドクリーナーで毛を吸い上げ消毒する。

「始めます、お願いします」
「お願いします」
 オペ特有の挨拶が合図で始まった。

 院長が腹部に数ヵ所、とても小さな穴を開ける。

 開け終わった院長に、鉗子などを体内に挿入するための器具を、院長の手もとのステンレスバットに置いた。

 院長が器具を挿入して炭酸ガスを注入する。通路の役割を果たす器具だから、これは注入しやすくて、本当に便利。

 お腹にスペースができたところで、ビデオカメラを渡した。

 バイタルサインを把握しながら、穴から挿入して観察する院長の手もとと、モニターに目を配らせる。

 今のよりさらに細い管を数本、ステンレスバットに置いた。

 院長は細い管を一本ずつ、穴からゴムつきの鉗子類を体内に挿入する。

 ビデオカメラで映し出された腹腔内の様子を、モニターで異物を探して、確認しながらおこなう院長。

「開腹手術と違って、じかに手で内臓に触れてオペができないので、高度なテクニックが要求されますよね、凄いですね」

「たまたまフィオナは空腹時だった。消化管内の観察と摘出がやりやすいだけだ、食べさせてなかっただけありがたい」

 院長は謙遜している。

 大病院の小川でも、数多く内視鏡の臨床を見てきたけれど、自信に満ち溢れた院長には、技術的なセンスがあると思う。

 院長の繊細且つ大胆な手つきを見ていると、海知先生のオペを想い出す。

 院長も、今まで積極的に知識を得て、医療技術の向上に全力を注ぎ、努力してきたんでしょうね。

 そしたら、自然にスキルもアップしていくよね。