「心配するな、俺は文句なしのロマンチックな顔したイケメンだから、大丈夫。いっしょに入って」
今の理由で、なにが大丈夫なの。
真顔で言い切る根拠のない自信にもほどがある。海知先生って真顔でも冗談を言う、いつもそう。
『初めまして、こんにちは。代診医の海知と申します、よろしくお願いします』と、よく通る爽やかな声が診察室に響き渡り、礼儀正しく頭を下げる。
頭を上げると同時に、さらさらとした黒髪が絹のように滑り落ちる。
頭を下げた海知先生に挨拶をしたオーナーが、私に声をかけてきた。
「いつもの先生じゃないんですね」
「先生が体調を崩されまして、海知先生に診察をしていただきますので、よろしくお願いします」
一通りの挨拶が済むと、太陽みたいな明るい笑顔がオーナーに注がれた。
海知先生を初めてまともに見たオーナーの、あらあらみたいな驚いた顔。
「海知先生も先生に負けず劣らず、とてもきれいなお顔立ちで背も高いですね。ここは容姿がよくないと働けないんですね」
オーナーが、凄く美しいものを初めて見た顔で冗談交りに笑いかける。
「モカちゃんのお母さん、この川瀬動物看護師が立派に働けてるんです。顔は関係ありません」
ちょっと、ふざけないでよ。
思わず笑うオーナーに、三日月みたいな目をしながら微笑みかけちゃって。
「冗談がお好きですね」
オーナーの返しも海知先生のペースに、はまったみたいで楽しそう。
「その後、モカちゃんの様子はいかがでしょうか」
二人が微笑みの余韻を残したころ、海知先生が口を開いた。
静かにゆっくりと診察モードに切り替える。
オーナーの言い分をよく聞いて、オーナーが納得するように明朗快活に、じっくりと丁寧に説明する。
オーナーの人と成りや家庭環境などを会話から引き出して、バックグラウンドの違うモカを理解しようとしているみたい。
聞き上手を目の前に、オーナーも気持ちよさそうに話している。
「モカちゃん、初めまして。よろしくね」
それまで、いっさいモカに触れない、話しかけないを徹底して、まるでモカの存在に気づいていないかのようにしていて、自分も空気みたいに存在を消していた海知先生が、ようやくモカに声をかけた。
『警戒心が強くて環境の変化に敏感な患畜は、しばらく放っておけ。そのうち、その変化に慣れていく。患畜が落ち着いたら接触しろ』
小川に入ったころ、そう言って海知先生が教えてくれたっけ。
さりげなくモカに優雅に触れる、しなやかな指先に過敏に反応したモカが唸り声を上げたのを聞いて、海知先生がそっと指先を引いた。
「まだ会ったばかりだし警戒するよね。怖いもんは怖いよね。わかるよ、その気持ち」
常に冷静でありながら、優しくゆったりとした態度で、どっしりと構える海知先生の姿は、昔から私に安心感を与える。
小川では患畜にも安心感が伝わっていた。きっとモカにも伝わるはず。
デリケートで臆病な子は恐怖心から唸る。敵意はないから決して噛みつかない。
それを十分に知っている海知先生は、ゆっくりと指先と心の距離を縮めていく。
今の理由で、なにが大丈夫なの。
真顔で言い切る根拠のない自信にもほどがある。海知先生って真顔でも冗談を言う、いつもそう。
『初めまして、こんにちは。代診医の海知と申します、よろしくお願いします』と、よく通る爽やかな声が診察室に響き渡り、礼儀正しく頭を下げる。
頭を上げると同時に、さらさらとした黒髪が絹のように滑り落ちる。
頭を下げた海知先生に挨拶をしたオーナーが、私に声をかけてきた。
「いつもの先生じゃないんですね」
「先生が体調を崩されまして、海知先生に診察をしていただきますので、よろしくお願いします」
一通りの挨拶が済むと、太陽みたいな明るい笑顔がオーナーに注がれた。
海知先生を初めてまともに見たオーナーの、あらあらみたいな驚いた顔。
「海知先生も先生に負けず劣らず、とてもきれいなお顔立ちで背も高いですね。ここは容姿がよくないと働けないんですね」
オーナーが、凄く美しいものを初めて見た顔で冗談交りに笑いかける。
「モカちゃんのお母さん、この川瀬動物看護師が立派に働けてるんです。顔は関係ありません」
ちょっと、ふざけないでよ。
思わず笑うオーナーに、三日月みたいな目をしながら微笑みかけちゃって。
「冗談がお好きですね」
オーナーの返しも海知先生のペースに、はまったみたいで楽しそう。
「その後、モカちゃんの様子はいかがでしょうか」
二人が微笑みの余韻を残したころ、海知先生が口を開いた。
静かにゆっくりと診察モードに切り替える。
オーナーの言い分をよく聞いて、オーナーが納得するように明朗快活に、じっくりと丁寧に説明する。
オーナーの人と成りや家庭環境などを会話から引き出して、バックグラウンドの違うモカを理解しようとしているみたい。
聞き上手を目の前に、オーナーも気持ちよさそうに話している。
「モカちゃん、初めまして。よろしくね」
それまで、いっさいモカに触れない、話しかけないを徹底して、まるでモカの存在に気づいていないかのようにしていて、自分も空気みたいに存在を消していた海知先生が、ようやくモカに声をかけた。
『警戒心が強くて環境の変化に敏感な患畜は、しばらく放っておけ。そのうち、その変化に慣れていく。患畜が落ち着いたら接触しろ』
小川に入ったころ、そう言って海知先生が教えてくれたっけ。
さりげなくモカに優雅に触れる、しなやかな指先に過敏に反応したモカが唸り声を上げたのを聞いて、海知先生がそっと指先を引いた。
「まだ会ったばかりだし警戒するよね。怖いもんは怖いよね。わかるよ、その気持ち」
常に冷静でありながら、優しくゆったりとした態度で、どっしりと構える海知先生の姿は、昔から私に安心感を与える。
小川では患畜にも安心感が伝わっていた。きっとモカにも伝わるはず。
デリケートで臆病な子は恐怖心から唸る。敵意はないから決して噛みつかない。
それを十分に知っている海知先生は、ゆっくりと指先と心の距離を縮めていく。