「なにか変わったことがあったら、遠慮しないで連絡してください。様子を見ようはダメですよ、すぐに連れて来てください。夜中でも構いません」

 院長の力強い言葉と優しい微笑みに、オーナーが安心したみたい。

「ありがとうございます。かっこよすぎて、男でも惚れそうです」

 オーナーの言葉に取って変わり、三人の笑い声が響く。

「なにか、気にかかることはありませんか」

「大丈夫です、ありがとうございます」

 いつも院長は、少しの変化でも躊躇しないで遠慮なく連絡をくださいとオーナーたちに話しているし、気にかかることはないかも聞いてあげる。

 診察券や薬袋の裏には、“救急時には事前に動物病院へ連絡を入れてから連れて来ていただくと、救命率がさらに上がります”って、目立つように印刷もしている。

 いざというときにパニックに陥り、動けなくなるオーナーがいる。

 いつも印刷を目にして、“どうか救急時には動物のために思い出して、落ち着いて対処してあげて”っていう、院長の強い想いが込められている気がする。

「ドゥドゥ、今日はこれでおしまいだよ。お利口さんだったね」

「いい子ちゃん、またね」

 ドゥドゥが満面の笑みを浮かべて尻尾ふりふり、テコでも動かない。

「ドゥドゥ、行くぞ。おい、立てって」

 ちょこんとお座りした楽しそうな笑顔が、一通り三人の顔を見ていて、オーナーに引かれるリードで胴輪が動いても、どこ吹く風。

 苦笑いを浮かべるオーナーが、しどろもどろで、続けて口を開く。

「すみません、本当にすみません。先生のことが大好きなんで。病院も居心地がいいみたいで大好きなんです」

「ドゥドゥちゃん、置いていかれちゃうよ」

「ドゥドゥ、先生の家に泊まるか」

 院長も私もオーナーといっしょにドゥドゥに声をかける。

「ドゥドゥ、モップみたいだぞ、立てったら。失礼しました、ありがとうございます」

 オーナーが体を抱えて連れて行く。

「行動の始まりは?」
「飼い主からです」

 凄い、院長の問いかけにオーナーが即答、息ぴったり。いつもの合言葉かなにかなの?

「その通りです。特にサモエドは上下関係を作って、上手に群れを維持することが得意ですからね。しっかりとリーダーが主導権を握って、躾を頑張ってください」

「頑張ります」
 元気で大きな返事が気持ちいいオーナー。

「お大事にどうぞ」

 陽気なドゥドゥが、心を和ませてくれた。

 いつもいつも、動物たちに癒されて力をもらっている。
 私も力をあげられているのかな。

「ドゥドゥ、パルボだったんですって?」
「ああ」

 診察台を消毒しながら聞いたら、返事は素っ気ない一言だけ。

「元気になってワクチンや健診で、また会えると跳び跳ねたくなるほど嬉しいですよね。完治して退院するときも嬉しいですが、ドゥドゥみたいな再会は一番嬉しいです」

 おしるし程度に頷いてくれて、薬棚に続く診察室のドアを開けて、受付の方に歩いて行っちゃった。

 ドゥドゥに対する態度と、この落差。