恋愛に無関心の院長が恋に落ちるわけがない

「はい、おかげさまで見たまんまです。すみません、ドゥドゥ、もう落ち着けよ」

 オーナーが必死になだめる。

「ドゥドゥちゃん。体重は、あとで測ろう。体温だけ測らせてね」

 体温計にカバーをしてオイルに浸し、しゃがみ込む。

 あんなにはしゃいでいたのに動かない。

「ドゥドゥちゃん、偉いですね。診察を嫌がらないで、慣れっこですね」

「こんなときに、パルボで先生に助けてもらったからだと思います」

 オーナーの両手が胸もとで小さな楕円形を作る。

 まだまだ生まれたての子犬じゃないの。

「パルボで生還したんですね、凄く嬉しいです。ドゥドゥちゃんの生命力がパルボに勝ちましたね」

 パルボが完治したって、オーナーがよほど直感が優れていて、行動力があるんだ。

 即、行動で助かった大切な命の息吹をドゥドゥは感謝しているね。

 パルボは呆気なく散って逝き、命の儚さや尊さを教えてくれる。

 そして今、パルボから生還して完治したドゥドゥが、全身で生きる喜びと生きる力を教えてくれている。

「ドゥドゥ、ありがとうね」

 お礼を言う私の視野に不思議そうなオーナーの顔が入ってくる。

「ドゥドゥちゃん、偉いね、よく頑張ったね。パルボだったなんて、嘘みたいに元気になって嬉しい」 

「先生はドゥドゥのために片時も離れずにつきっきりで、寝ずの看病をしてくださったんです。後日、受付のお姉さんが教えてくださって」

 ノインやフェーダーのことも、そうして育ててくれたんでしょうね。

「『僕にできることなら、なんでもします。必ず元気なドゥドゥちゃんに戻して、お返ししますから』って」

 心が熱くなったみたいで、オーナーが言葉に詰まりながら話してくれる。

「不安でいっぱいになってたときに、先生の言葉が、どれだけ心強かったか」

 撫でろ撫でろと足踏みをするドゥドゥを撫でながら、オーナーを見上げる。

「先生にドゥドゥを助けていただき、感謝しかありません。先生はドゥドゥの命の恩人です」

「院長は心血を注いで、一生懸命に助けてくれますからね。少々お待ちください。今、院長に変わりますね」

 診察室を出て待機室に行った。

「田沢ドゥドゥちゃん、ワクチン接種です」

「お、ドゥドゥか。どのワクチンにするか相談して決めるから、まだ準備はしなくていい」

「はい」
 診察室へと入る背中を見送った。

 きゅんきゅん、ひんひん甘えた高い鳴き声とともに、ばたばた音がする。

 高速回転の尻尾が壁に当たっているんだ。

 院長もドゥドゥから手荒い歓迎を受けているみたい。

「川瀬さん、これ検査お願い」

 受付でドゥドゥのオーナーが持参したものを預かっていた香さんから渡された。

 検査結果は、お腹に虫はいない。

 異常がないことを診察中の院長に報告すると、数字を言われて診察室をあとにした。

 数字はワクチンの種類。注射を用意して診察室に入る。