ガタガタと音を立てながらプライドが崩れた。

 期待はしていないけれど、言われちゃったな。

 無力感に襲われた体は、足から底なし沼に引きずり込まれていくみたいに重い。

「慣れるまでは余裕がないのは仕方がない」

 院長が嚙んで含めるように諭してくれるから、冷静さを欠いて感情的になってしまった未熟な自分が情けない。

 未熟か。嘘みたい、自然に自分で自分を未熟って認めて受け入れられた。

 海知先生のおかげで執着していた、いらないプライドを知らないうちに、かなぐり捨てていたんだ。

 つま先から体ごと、私の方へまっすぐに向けている院長の姿は、呆れるとかイラつくどころか、逆に私のすべてを受け止めてくれた。

「ルカのお迎えは、いつですか」

「三十分ほどで迎えにいらっしゃる。ルカにお別れはしたか」
「はい」

 あと三十分でルカとお別れ。体から血の気が引くみたいに冷たくなってきた。もう最後なんだ。

「一生懸命にルカを助けてくれようと、いっしょに頑張ってくれてありがとう。ルカは幸せだった。お疲れ様」

「お疲れ様です」
「あとは俺に任せて、もう上がれ」
「はい。お先に失礼します」

 いても立ってもいられなくなって、院長に挨拶をして退室しようした。このままルカと、お別れなんて嫌。

「今夜はしっかりと睡眠を取れ。少しずつでも食べろ。体がもたない」

 振り返ると、コントロールよく放ってこられた飲む栄養ゼリーが、私の手のひらにピタリと収まった。

 精神的にまいって、食事が喉を通らなかったのを気づいていたの?

 それが信じられないのと、無頓着がこういうのをくれるのも信じられなくて、ぽわんとした表情でお礼を言って入院室に向かった。

 最後の最後、もう一度だけルカに逢いたかった。

 これで本当に最後なんだね。ルカ、今までありがとう。

 もう苦しみや辛さから解放されてよかったね。

 いつか、またね。ルカの顔を見れば、また涙が溢れ出る。

 殺菌灯の青紫の薄暗い光の中、押し殺す嗚咽が食い縛る歯の隙間から漏れる。

 こらえきれない涙が、私の感情を無視して溢れ出してくる。

 叫びたいほどの痛い哀しみが、爪を立てて深く荒く引き裂くように心を引っ掻く。

 落ち着くまで泣き続けてから休憩室に行った。

 帰り支度中、飲む栄養ゼリーを口にしながら、あれこれ考える。

 院長の言ってくれることは嬉しいけれど、あのときに言われた言葉が耳にこびりついて、どうにも離れてくれない。

 泣きそうになるのをこらえる道のりは、マンションまで遠く感じた。