「わからないです」
恥ずかしいような、おかしな気分で、体が熱くなっちゃう。
「確信がもてるのは、川瀬の心は完璧だ、俺が中にいるから」
院長は、私の心の中にもだし、頭の中にも。
「この幸せを大切にしたいんです。院長は約束したから、突然いなくならない。でも」
「でもどうした?」
「命は、あって当たり前じゃない。急に消えちゃいます、でも院長はいてくれますね」
「ああ、もちろんいる」
「今、しておかないと今じゃないとダメなんです。今度、次に、いつかがあるって保証は誰にもないんです」
「今を大切に生きることを、お父様は教えてくださった」
私は院長の言葉に大きく頷いた。
亡くなった人たちは遺された者たちに、大切なことを教えて旅立って逝く。
「ルカに思い入れが強かったのも」
「そうです」
ルカの死は、哀しくて辛かったんじゃなくて、未だに辛いの。
「ルカが落ちたとき、あれほど入り込み泣く理由がわかった」
「辛いです」
「ここ最近、精神的に辛いことが重なってしまったな」
返事のしるしに頷いた。
私の手を優しく握る感触。
院長に手を握られるたびに、自分の中で、なにかを感じては思い出そうとした。
「今、やっとわかりました。いつも、ずっと私の手を握ってくれてたのは院長、そうですよね」
「握っていたんじゃない、川瀬が俺の手を握ったまま、ずっと離さなかった」
院長ったら少しだけ素直じゃないの。私の握る力くらい、すぐに手を離せるでしょ。
「無意識に、院長の心を求めてたんだと思います」
「そうかもな。気を失っているときも、大雨の日に、うわごとで俺を呼んだときも。それに休憩室で眠っていたときも」
天井を見つめながら、ぽつりぽつりと話す院長の穏やかな横顔が、とても幸せって言っている。
「休憩室?」
「莉沙ちゃんが、起こして来てって言ったとき」
あああ、あった、思い出した。
「あのとき、髪や頬に触れてから、俺を見たから知っていたのかと思った」
「知らなかったです」
「けっこう川瀬に呼ばれて、触れていたんだな」
「どのときも院長、院長って?」
「そうだ、そうして甘ったるい声で俺を呼ぶんだ。最初に気を失ったときは、うわごとのようにお父様を呼んでいたのに」
院長が自分の腕の中へ、大切そうに私を抱き寄せる。
居心地のいい陽だまりをみつけた猫みたいに安心して、体から力が抜けるように、院長から受ける幸福感に浸る。
「大雨のときは、夜中に目が覚めたらしく、また俺を呼び寂しがるから夜明けまで」
「眠ってないんですか」
「なんてことはない、徹夜は慣れている」
香さんが話してくれた院長の子どものころも、バディのときも眠っていたのに。
「どうして、一晩中起きてたんですか」
恥ずかしいような、おかしな気分で、体が熱くなっちゃう。
「確信がもてるのは、川瀬の心は完璧だ、俺が中にいるから」
院長は、私の心の中にもだし、頭の中にも。
「この幸せを大切にしたいんです。院長は約束したから、突然いなくならない。でも」
「でもどうした?」
「命は、あって当たり前じゃない。急に消えちゃいます、でも院長はいてくれますね」
「ああ、もちろんいる」
「今、しておかないと今じゃないとダメなんです。今度、次に、いつかがあるって保証は誰にもないんです」
「今を大切に生きることを、お父様は教えてくださった」
私は院長の言葉に大きく頷いた。
亡くなった人たちは遺された者たちに、大切なことを教えて旅立って逝く。
「ルカに思い入れが強かったのも」
「そうです」
ルカの死は、哀しくて辛かったんじゃなくて、未だに辛いの。
「ルカが落ちたとき、あれほど入り込み泣く理由がわかった」
「辛いです」
「ここ最近、精神的に辛いことが重なってしまったな」
返事のしるしに頷いた。
私の手を優しく握る感触。
院長に手を握られるたびに、自分の中で、なにかを感じては思い出そうとした。
「今、やっとわかりました。いつも、ずっと私の手を握ってくれてたのは院長、そうですよね」
「握っていたんじゃない、川瀬が俺の手を握ったまま、ずっと離さなかった」
院長ったら少しだけ素直じゃないの。私の握る力くらい、すぐに手を離せるでしょ。
「無意識に、院長の心を求めてたんだと思います」
「そうかもな。気を失っているときも、大雨の日に、うわごとで俺を呼んだときも。それに休憩室で眠っていたときも」
天井を見つめながら、ぽつりぽつりと話す院長の穏やかな横顔が、とても幸せって言っている。
「休憩室?」
「莉沙ちゃんが、起こして来てって言ったとき」
あああ、あった、思い出した。
「あのとき、髪や頬に触れてから、俺を見たから知っていたのかと思った」
「知らなかったです」
「けっこう川瀬に呼ばれて、触れていたんだな」
「どのときも院長、院長って?」
「そうだ、そうして甘ったるい声で俺を呼ぶんだ。最初に気を失ったときは、うわごとのようにお父様を呼んでいたのに」
院長が自分の腕の中へ、大切そうに私を抱き寄せる。
居心地のいい陽だまりをみつけた猫みたいに安心して、体から力が抜けるように、院長から受ける幸福感に浸る。
「大雨のときは、夜中に目が覚めたらしく、また俺を呼び寂しがるから夜明けまで」
「眠ってないんですか」
「なんてことはない、徹夜は慣れている」
香さんが話してくれた院長の子どものころも、バディのときも眠っていたのに。
「どうして、一晩中起きてたんですか」


