凄いやり合いだけれど、そこにピリピリとした重いムードはなくて、仲良しの小競合いに見えるから、本当に羨ましくて仕方がない。

「勘違いなんかしていない」
「嘘よ」
「嘘じゃない」
「ムキになるところが怪しいわよ」
「うるさい」
「あなたが嘘つくと、すぐにわかるんだからね」
「言ってみろ」
「やだ、教えない」

 ダメだ、言い争いが可愛い。どうしても小競合いが楽しそうで、にやにやが抑えられない。

 夢中になってバトルを繰り広げる二人に、夢中になってニコニコしながら見ている私の姿が滑稽に映ったみたい。

 気づいたら、二人が引き気味の顔で見ていた。

「もっと、もっと続けてください」
「そう言われると、やりにくいわね」

 香さんが、気まずそうに院長に同意を求めると、横目使いに素知らぬ顔を決め込む。

「喧嘩するほど仲がいいって、実演で今日もお二人の姿を拝見できて嬉しいです。これだけは言ってはいけないってことを、言わないのは無意識なんでしょうね、いいな姉弟って」

「感激や感心されて、おかしな気分だわ、私が姉で弟と妹」
「川瀬は俺の妹じゃない」

「わかったわよ。でも、もうバトルには乗らないからね」
「さすが、お姉さん、年上だから折れるんですね」

「いちいち感心したり解説するな」
「あなた、どうして川瀬さんに八つ当たりするの?」
「八つ当たりなんかしていない」
 少し二人が黙り込んでしまって、つまらない。

「どうぞ、お二人とも続けてください、さあ」
 ウキウキしながら、二人を交互に見つめて催促する。

「やめましょう、教育上よくないわ」
「俺も、そう思った、やめよう」
 へえ、この二人でも結託することがあるんだ。

 それから三十分ほど経って、香さんが急用で帰ると席を立つ。

 院長と私も立とうとしたら、「あなたたちは、もう少しゆっくりしていきなさいよ」って、二人の肩をぎゅっと押さえ込んで立たせない。

「それじゃあ、明日ね」
 スカートの裾をなびかせて、颯爽と去る香さんの背中を唖然と見送る。

 ゆっくりと首を回したら、院長と目と目が合った。

「時間は大丈夫か」
「はい」
「付き合え」
 唐突すぎて心臓を掴まれたみたいに、どぎどきしちゃう。

「すぐに返事をしないとダメですか」
「待つのは嫌だ、すぐに欲しい」

 どうしよう、答えが浮かばない。って、それより欲しいって返事? それとも私?

「付き合え」
 まだ言う。

 引き下がらずに意外と強引なんだ。いえいえ、感心している場合じゃない。

 さあさあ、どうする、どうするみたいに、じっと瞳をそらさずに見つめている。

 欲しいとか付き合えとか展開が早すぎて、頭も心も追いつかない。どうしたらいいの。