すっきりした朝を迎え、足早に保科に向かった。

 休憩室ではスクラブの色を考えてみた。院長との賭け。
 ピンクと藤色を抜かせば、院長とかぶる可能性が高くなる。今日はグリーンにしてみよう。

 着替えて入院室に行くと、しばらくして院長が下りて来た。
「おはようございます」
「おはよう、グリーンのスクラブとは渋いな。狙っただろう。そうは、いくか」
 ブルーのスクラブの院長が、口角を微かに上げて微笑む。

 院長はケージを見て回り、私は患畜の世話を始めた。
「昨日はありがとうございます。楽しかったです」
「ああ」
 見送ってくれた昨夜の態度と違って、素っ気ないの。

「しっかり休んだか」
「はい。おかげさまで、ぐっすり」
 ケージの患畜たちをチェックしながら、私の話を聞いていて頷く。

「ハッピーが莉沙ちゃんのお宅に引き取られて、手持ち無沙汰じゃないですか。寂しくないですか」
「それは川瀬の方だろう」
 日々成長するハッピーの姿を見られるのは嬉しかった。

「風邪が悪化しなくてよかったですよね」
「手厚い看護をありがとう」
「院長の役に立ててよかったです」

 それぞれの仕事に取りかかり、世話が終わり保定で呼ばれた。話は昨日のふれあい動物園の話題になった。

「遊びに連れて行くと、いつもお兄ちゃんが私の面倒を見てくれるから楽だって、よく親が言ってたんですよ」

 患畜に目を向けて処置を施す院長が、ちゃんと聞いているよって感じで頷く。

「マイペースで、のほほんとした両親に笑ってしまいます」
 院長は絶妙なタイミングで、相づちを打ってくれる。

「私もお兄ちゃんを見つけると、一目散に走り寄って、ずっと後ろをついてたそうです」

「ご両親も川瀬も、それだけ男の子を信頼していたんだな。男の子の方も」 

「はい、お兄ちゃんもそうだったらいいなと思います」

 四歳くらいの記憶って、はっきりと覚えていたり、うっすらと覚えていたり。

「私が動物好きになったのは、お兄ちゃんのおかげって、母は今でも感謝してます」

「男の子は、川瀬の笑顔が見たくて嬉しそうな顔が見たくて、それに動物を大好きになってほしくて一生懸命だったんだろう」

「お兄ちゃんに逢えたら喜んでくれるかな、私が動物看護師になったって知ったら」
「喜ぶだろう」
 独り言にも答えてくれた。

「果たして男の子は、心優しい青年に成長しただろうか」

「絶対、今も優しいお兄ちゃんのままですよ」
「ありがとう」
「え? ありがとう?」