向かい合い、レジャーシートの端と端を持って広げる。

「午後は、モルモットやウサギのエリアに行きたいです」
「ああ、わかった、相変わらずせっかちだな」
 院長が口角を緩ませ、レジャーシートを敷き詰めている。

 無頓着なのにシートをきっちり敷いて、オペとおなじで丁寧なんだ。
 無頓着って、がさつとか大雑把とは違うのね。

「さ、できた、どうぞ」
「ありがとうございます」
 院長が荷物を持ち上げて、上下に軽く振っている。

「頑張ったな、張りきってたくさん作っただろう」
 気恥ずかしくて黙って頷く。

「初めて、男の人にお弁当を作ったから」
 本当は院長といっしょに食べられるから。
そう言いたいけれど、恥ずかしくて言えない。

「ありがとう」
 え、まさか気持ちがわかったの?

「毒味係に選んでくれて」
 院長がニヤリと口角を上げる。

「毒味だなんて。そんなつもりで院長に作ったんじゃありません」 

「落ち着け、冗談だ。こんなにたくさん作って、早起きしたんだろう。休みの日なのにありがとう」 

 お手拭きとお箸を渡して、次々にお弁当を並べていく。

「どういたしまして」
「大変だっただろう」
「好きだから」
 院長は取り皿を置いたりして、聞いていないみたい。

「好きなのは、なにがだ。早起きか、調理か、人物か」

 紙コップを置きながら、顔も上げずに聞いてきた。聞いてないような顔して聞いてたんだ。

 動揺した指先から、お茶のペットボトルのキャップが落ちて、ころころ院長の前まで転がった。

 恥ずかしくて、ますます動揺してしまう。また、うまく院長の目の前にキャップが転がっていくなんて。

 なにも言わずに院長が、私の手からペットボトルを手に取り、二人の紙コップに注いだ。

「ありがとうございます」
「落ち着け。その勢いで、お弁当もひっくり返す気か」

 口角をきゅっと上げて笑う院長は、私が動揺しているのが、わかっているんでしょ。

 動揺させているのは誰? 目の前で、夢中でお弁当に目を落としている人。
 
 ベーコンチーズ巻き、だし巻き玉子、カニさんウインナー、エビフライ、煮込みハンバーグ、森みたいに見えるブロッコリーに色とりどりのプチトマト。
 それに一口サイズのいなり寿司。

 院長が並んでいるお弁当を時計回りに見ながら、微笑んでいる。
「いただいていいか」
「どうぞ、召し上がってください」
「いただきます」の声が自然に合わさった。

 嬉しそうな顔で、お箸が休む間もなく食べていた院長の手が止まり、お弁当箱の中を見つめている。

「このカニには目がある」
「目は黒ゴマなんです」

「目と目が合って、かわいそうで食べられない」
 可愛いことを言うから吹き出しそうになる。

「どうぞ」
 カニさんウインナーを差し出した。
「ありがとう」

 黄色のピックを持ちながら、哀しそうな目でカニの目と目を合わせている院長が可愛すぎる。

「いただきます」
 目を瞑って口に入れた院長が、「おいしい」って目を開けた。