「ドゥドゥ、雷か。びっくりしちゃうよね、怖かったね」
「オーナーのご家族総出で、あちこちを探したけれど見つからなかったそうよ」
「みなさん、心配でたまらなかったですね。ドゥドゥ、どこで一晩過ごしてたのよ」
「朝一で、動物管理事務所に連絡するはずだったって。すぐに、お迎えに来るわ」
「よかったですよね」
「ドゥドゥは、うちに来るつもりだったのかしら」
「うちが大好きですからね」
雷の時期は、ドゥドゥみたいに雷鳴や稲光でパニックに陥って、脱走して迷子になった子たちが、たびたび保護されて動物病院に連れて来られる。
夏の風物詩の花火大会の時期も同様に、神経質な子や怖がりさんたちが、保科に連れて来られる。
光景はテーマパークの総合案内所。迷子の子どもたちみたいに、保科に犬が溢れかえる。
「ドゥドゥ、待合室にいてもいいですか」
「いいわよ」
ドゥドゥ、おとなしくしていてね。私は、これを院長に渡しに待機室に行かないと。
フックにリードをかけて、ひんひん、きゃんきゃん鳴かないように、特に声をかけずに無視してドゥドゥから離れた。
さすがに院長、もう起きているよね。そっと待機室に足を踏み入れた。
え、まだ眠っている。
きちんと揃えた両手の甲に、小さな顔をちょこんと乗せている体勢も変わらず。
口もとに耳を近づけると微かに寝息が聞こえて、熱い息がかかった。
「生きてる。よかった、ちゃんと生きてる。確かめるのが今でも怖い、よかった」
今朝は、どうしてこうも、どきどきさせられることばかりが起こるの。心配で神経がすり減りそう。
「ドゥドゥがいるの知ったら驚くかな」
それよりドゥドゥって。あの子、朝ごはんなにも食べてないでしょ。
それとも人懐こいから、知らない人から恵んでもらってたりして。
二つの食器に餌と経口補水液を入れて、待合室に行った。
顔までぺたんと床に伏せて、退屈そうなドゥドゥがパッと起き上がった。
ひんひんと甘えた声で鳴いて、リードいっぱいまで引っ張って立ち上がり、来て来てって両方の前肢を胸の前で上下に振る。
「ドゥドゥ、朝ごはん食べよう。もう少し下がって、落ち着いてったら。言わなくても座ってるの、お利口さんね。お腹すいたね、待て」
数十秒のアイコンタクトのあとの「よし」の瞬間、飲み込むように食器の中身が空になった。
「完食して、見たところ熱中症の症状もなくて、ケガをしたようもなく元気ですが、帰る前に院長に診てもらった方がいいですよね」
受付に視線を馳せて、香さんに声をかける。
「そうね、ドゥドゥは明彦にも会いたいでしょうし」
香さんが待機室に顔を向けて、大きく息を吸い込んだ。
「待ってください、院長は眠ってますから呼ばないであげてください」
「まだ寝てるの?」
「昨日は夜間の急患で、だいぶ疲れてるみたいで。今日の入院処置は数頭ですし、あともう少し寝かせてあげてください、お願いします」
「え? ええ」
目を白黒させて驚いた香さんの顔。なにか、おかしなことを言ったかな?
ドゥドゥの世話が終わったから入院室に上がって、また続きを始めた。
食器を下げてケージ内やトイレの掃除と給餌が終わるころ、「おはよう」って、いつもの低くクールな声が聞こえた。
「おはようございます」
振り返って視線に入ってきた顔は、すっきりしていて髪型も整い、スクラブも着替えて戦闘モードに切り替わっている。
「オーナーのご家族総出で、あちこちを探したけれど見つからなかったそうよ」
「みなさん、心配でたまらなかったですね。ドゥドゥ、どこで一晩過ごしてたのよ」
「朝一で、動物管理事務所に連絡するはずだったって。すぐに、お迎えに来るわ」
「よかったですよね」
「ドゥドゥは、うちに来るつもりだったのかしら」
「うちが大好きですからね」
雷の時期は、ドゥドゥみたいに雷鳴や稲光でパニックに陥って、脱走して迷子になった子たちが、たびたび保護されて動物病院に連れて来られる。
夏の風物詩の花火大会の時期も同様に、神経質な子や怖がりさんたちが、保科に連れて来られる。
光景はテーマパークの総合案内所。迷子の子どもたちみたいに、保科に犬が溢れかえる。
「ドゥドゥ、待合室にいてもいいですか」
「いいわよ」
ドゥドゥ、おとなしくしていてね。私は、これを院長に渡しに待機室に行かないと。
フックにリードをかけて、ひんひん、きゃんきゃん鳴かないように、特に声をかけずに無視してドゥドゥから離れた。
さすがに院長、もう起きているよね。そっと待機室に足を踏み入れた。
え、まだ眠っている。
きちんと揃えた両手の甲に、小さな顔をちょこんと乗せている体勢も変わらず。
口もとに耳を近づけると微かに寝息が聞こえて、熱い息がかかった。
「生きてる。よかった、ちゃんと生きてる。確かめるのが今でも怖い、よかった」
今朝は、どうしてこうも、どきどきさせられることばかりが起こるの。心配で神経がすり減りそう。
「ドゥドゥがいるの知ったら驚くかな」
それよりドゥドゥって。あの子、朝ごはんなにも食べてないでしょ。
それとも人懐こいから、知らない人から恵んでもらってたりして。
二つの食器に餌と経口補水液を入れて、待合室に行った。
顔までぺたんと床に伏せて、退屈そうなドゥドゥがパッと起き上がった。
ひんひんと甘えた声で鳴いて、リードいっぱいまで引っ張って立ち上がり、来て来てって両方の前肢を胸の前で上下に振る。
「ドゥドゥ、朝ごはん食べよう。もう少し下がって、落ち着いてったら。言わなくても座ってるの、お利口さんね。お腹すいたね、待て」
数十秒のアイコンタクトのあとの「よし」の瞬間、飲み込むように食器の中身が空になった。
「完食して、見たところ熱中症の症状もなくて、ケガをしたようもなく元気ですが、帰る前に院長に診てもらった方がいいですよね」
受付に視線を馳せて、香さんに声をかける。
「そうね、ドゥドゥは明彦にも会いたいでしょうし」
香さんが待機室に顔を向けて、大きく息を吸い込んだ。
「待ってください、院長は眠ってますから呼ばないであげてください」
「まだ寝てるの?」
「昨日は夜間の急患で、だいぶ疲れてるみたいで。今日の入院処置は数頭ですし、あともう少し寝かせてあげてください、お願いします」
「え? ええ」
目を白黒させて驚いた香さんの顔。なにか、おかしなことを言ったかな?
ドゥドゥの世話が終わったから入院室に上がって、また続きを始めた。
食器を下げてケージ内やトイレの掃除と給餌が終わるころ、「おはよう」って、いつもの低くクールな声が聞こえた。
「おはようございます」
振り返って視線に入ってきた顔は、すっきりしていて髪型も整い、スクラブも着替えて戦闘モードに切り替わっている。


