その頃には口さがない父兄から“内縁の夫”とか“育児放棄”などという言葉をたびたび向けられていた。
親から聞いたのだろう。
他のクラスの知らない子にまで揶揄されたこともあった。
それは当然おじちゃんの耳にも届いていたはずで、だからこそ運動会のように親子で参加する行事がわたしは嫌いだった。
それなのにおじちゃんは、

「俺、お父さんたちより若いから有利だと思うんだ!」

と、むしろ前のめりで臨んでくれて、その笑顔にわたしはいつも救われたのだ。
本気で挑んだ親子競技は、高校生のお兄ちゃんと参加した子にあえなく負けたのだけど。

「俺ももう年かな……」

ゴールの脇に倒れ込むように座って、おじちゃんは大きく肩で息をする。
三十目前のおじちゃんは、ときどき白髪を見つけては、「若葉! これ抜いて!」とわたしにピンセットを持たせるなど、衰えを意識するお年頃になっていた。

「年だね。早く結婚しないと、相手いなくなるよ」

年なんてどうでもいい。
おじちゃんの大きな心に気づいてくれるひとはきっといるはずだから。
本当はそう思っているけれど、「もうやだっ!」と身をよじって嘆くおじちゃんが面白くて、言ってあげたことはない。

おじちゃんが結婚できない理由。
それは火を見るより明らかで、当然わたしのせいだった。

「おじちゃん、休みの日なんだから彼女と来たらよかったのに」

毎日家事してくれてるご褒美だと水族館も動物園も映画も遊園地も、ぜんぶ連れて行ってくれるから、申し訳なくてそう言った。
それでも、

「もちろんそのつもり。だから下見に付き合ってよ。デートで格好悪いところ見せられないでしょ」

と、真顔で言ってきたりする。

「ちょっとやそっと格好悪いからって振るようなひとなら、こっちからやめたらいいんだよ」

「至言だね」


わたしはおじちゃんの幸せを心の底の底から願っていた。
今でも願っている。
おじちゃんが、わたしなんか放り出して行ってしまうくらい好きなひとが早くできればいいと、本気で思っていた。