おじちゃんと暮らすことに、特別違和感はなかった。

「何かあったとき困らないように、使い方だけ教えておくね」

と洗濯機や掃除機、キッチン周りについてひと通り説明してくれたから、わたしは暇にまかせて脱ぎ捨てられた靴下を拾って洗ったり、ぐちゃぐちゃの新聞紙をまとめて回収に出したり、ウィンナーを炒めてみたりした。

「これ、若葉がやってくれたの?」

何かひとつできるようになるたび、おじちゃんは敏感に気づいて喜んでくれた。

「おじちゃんがちゃんとしてないからだよ」

『ちゃんとしてない』ことに関しては葉子おばちゃんも同じだったけれど、何かしてもおばちゃんが気づいてくれたことはなかった。
わたしの炒めたウィンナーを食べ、わたしが洗った靴下を履いて仕事に向かうおじちゃんを見ていたら、とても誇らしいような気持ちになり、もっとこのひとのために何かしてあげたいと思った。

一階に住む山村さんがお惣菜や果物をお裾分けしてくれたり、最初は反対していたおじちゃんのご両親も、おじちゃんの手が足りないときには助けてくれて、異常なはずのわたしたちの生活は順調だった。

家事の多くはわたしの仕事だったけれど、それでも遠足の日だけは特別で、おじちゃんはお弁当のためにかなり気合いを入れたようだ。

「これ、おじちゃんが作ったの!? すごい!」

「張り切ったからさ、朝四時までかかったよ」

海苔を使って細かくカットされた白雪姫、シンデレラ、ラプンツェルは売り物みたいに見事だった。
だけど、

「おじちゃん……この海苔のサイズだと、大き過ぎるよ」

「ああ! 本当だ! そこまで考えなかった!!」

海苔に全力を注いだせいで、おかずは冷凍のコロッケと冷凍のからあげとイチゴだけ。
わたしはブーブー文句を言ったように思う。
それでも里中先生が撮ってくれた写真を今見ると、高校生男子が食べるような大きなおにぎりを三つ抱えて、幸せそうに笑うわたしが写っている。