話は五歳の頃の、どうして葉子おばちゃんがそんなに忙しいのか、というところに戻る。
恐らくそれが、おじちゃんがわたしについた最初の嘘だったと思う。

「葉子さん、今日も仕事遅いんだって。だからうちで寝て待っていよう」

そう言うくせに、おじちゃんは夜遅く大きな音で映画を観たりした。

「おじちゃん、音大きくない?」

「こういう映画は迫力が大事だから、ちょっと大きいくらいがちょうどいいんだよ」

おじちゃんがにっこり笑ってそう言うから、わたしもそんな気がしてきて、大きな音で映画を観た。
おじちゃんの笑った顔が、わたしは大好きだった。
だからそれ以上は追及せず、おじちゃんはアクション超大作映画が大好きなんだと思っていた。

けれど、それとは別に葉子おばちゃんの行動に違和感を持っていた。
幼いわたしは、おじちゃんの部屋と壁一枚隔てた向こう側でどんなことが行われているのか、本当に知らなかった。
それでも何かもやもやとした濁った空気だけは敏感に感じるもの。
具体的なことはわからなくても、おじちゃんが葉子おばちゃんにとって“たったひとりの彼氏”ではないことにも気づいていた。
むしろ、おじちゃんが彼氏らしい扱いをされていたとは思えない。
電話で話すおばちゃんの、外国製のストロベリーアイスのように甘ったるい声は、おじちゃんには向けられていなかったから。
そしてそのことは、決しておじちゃんに言ってはいけないと思っていた。

大音量の映画が流れる壁の向こう。
おじちゃんはおじちゃんなりの理由で、わたしはわたしなりの理由で、そのことには触れずに過ごしていたのだ。