DEAR MY LIAR

長い時間、返事はなかった。
泣きじゃくるわたしに困っているようにも、怒っているようにも、すべてを諦めたようにも見える。
初めて見る顔だった。
わたしの涙が不安に駆られて止まる頃、おじちゃんの目があたたかくふんわりと細められ、レシートに手が伸びる。

「220円か。俺、やっすいなあ」

そして視線と同じくらいあたたかい両手が、わたしの顔を包んで涙の跡を拭った。

「泥なんてかぶってないよ。俺の守ってきたものは、真っ直ぐ育ってくれた。予想以上でびっくりしたけどね」

テーブルを回ってきつく抱きついたら、首筋から慣れ親しんだ“わたしの家の匂い”がした。
込み上げる想いは大きすぎてご近所迷惑になりそうだったので、おじちゃんのTシャツの肩のところを強く噛んで、声が出ないようにしてから思いっきり泣いた。

「懐かしいなぁ。若葉は初めてうちに泊まった日のこと、覚えてる?」

とんとんと背中を叩きながら、おじちゃんはゆったりと話し出した。

葉子おばちゃんから「帰れない」と連絡をもらったおじちゃんは、預かっていた合鍵で部屋に入った。
わたしは黙って座ってテレビを観ていたらしい。
おばちゃんがつけて行った夕方の幼児番組からそのままのチャンネルで、最先端のガン治療についての特集を、まんじりともせず。

『……若葉、大丈夫?』

呼ばれたわたしはおじちゃんを見て、無表情のまま走ってしがみついた。
そして、そのまま声を殺して泣いたそうだ。

「あんな風にされたらもう仕方ないじゃないか。あれを愛しいと思わない人間はいないよ」

わたしの涙なんて安いもののために人生を棒に振るなんて、本当にばかなひと。

「おじちゃん、ありがとう。ご褒美にわたしの分のシュークリームもあげるね」

シュークリームなんて食べきれないくらいあげるから、ずっとずっと一緒にいて。

「じゃあ遠慮なく、いただきます」