DEAR MY LIAR

シュークリームを食べた直後とは思えない、苦味走った表情でレシートを睨みつけている。

「おじちゃん、わたしまたおじちゃんと暮らしたい」

「ダメ」

「どうして?」

「それは聞かないで」

こういう肝心なときに上手に嘘ひとつつけないこのひとは、たくさんの嘘でわたしを守ってくれたのだ。
“ロリコン”とか、“いかがわしい”とか、容赦ない世間の言葉を一身に受けても笑って、誠実に育ててくれた。

「おじちゃんとは、もう二度と会わない方がいいと思ったんだよ」

「うん」

「おじちゃんが本当の本当にやましい気持ちなんてなかったってわかってる。わたしが誰かと結婚して幸せになるのを、心待ちにしてたよね」

高校生のとき、初めて彼氏を紹介したら涙声で『若葉を幸せにしてやってください』と頭を下げられた。
正直なところ、その想いは高校生男子には重すぎて引かれたっけ。

「わたしがここに戻るってことは、おじちゃんが築き上げたもの全部、ぐっちゃぐちゃに壊すことだから、ずっと迷ってた」

きっと世間のひとは、わたしがまだ幼い頃からふしだらな関係だったんだと思うだろう。
おじちゃんは、最初からその目的で引き取ったと後ろ指を指されるかもしれない。

「俺のことはどうでもいいけど、若葉にはみんなから祝福されるような恋愛をしてほしいんだ」

よくわかってる。
痛いほどにわかってる。
胸が丸ごとひっくり返るような痛みに耐えて、うんうんと小刻みにうなずいた。

「だけどごめんなさい。わたし、おじちゃんがいい」

初めて熱を出した日の夜、不安で離れないわたしを一晩中膝の上に抱いて、一緒に毛布をかぶって寝てくれた。
翌朝頬擦りするおじちゃんの、伸びた髭の痛みを今でもよく覚えいる。
高校受験のときなんて、わたし以上に心配し過ぎて眠れず、合格発表の朝にトイレで倒れたこともあった。
そんなおじちゃんのことは、わたしだって誰より大切に思っていて、だからこそ離れた方がおじちゃんのためだとわかっているのだ。
それなのにおじちゃんがつまずいたりするから、積もった気持ちがドミノ倒しのようにひとつの方向に向かって、もう止められない。

レシートを突きつけたときの強気はどこに消えたのか、みっともなく流れる涙を両手の甲で交互に拭う。

「わたしを誰より大事にしてくれるのなんて、おじちゃんしかいないじゃない。わたしが誰より大事なのも、おじちゃんしかいないじゃない。他なんてどうでもいいよ。おじちゃんといたい。だからおじちゃん、わたしのために汚名を着てくれる? せっかく守ってくれたものに泥を塗っちゃうけど、許してくれる?」