よほどタイミングのいいひとらしい。

「ケガしたっていうからタカ君のお見舞いに行ったんだけどさ、なんかこんがらがってるみたいね」

数年ぶりに葉子おばちゃんが会いにきて、幸か不幸かわたしの天涯孤独は長く続かなかった。
最後に会ったときとまったく変わっておらず、若さと引き換えに悪魔に魂でも売ったのだろうと思う。

「何か用? お金の無心に来たの?」

おしゃれなカフェテラスにまったくそぐわないセリフを吐き捨てる。

「あんた、私をどんな人間だと思ってるのよ」

魂をバーゲンセールのワゴンで売りさばくイメージが浮かんだけれど、さすがに口にするのはやめておいた。

「葉子おばちゃん、お母さんの遺産横取りしたでしょ? それからわたしに関連する手当ての類いも全部」

わたしと姉妹と言っても通用するほど若々しいおばちゃんは、悪びれもせずきれいな笑顔を見せた。

「おじちゃん、学費も生活費も『葉子さんからもらってる』って言ってたけど、嘘だろうなって思ってた。クリスマスも誕生日もおじちゃんからとおばちゃんから、いつもふたつプレゼントがあったけど、あれも両方おじちゃんが用意してたんでしょ? 」

「プレゼントは私もあげてたわよ」

「嘘。わたしが欲しがってる物を葉子おばちゃんが知ってたはずない」

「買ったのはタカ君だけど、私だって毎回千円巻き上げられてたもの」

驚いて目を見開くわたしに満足したようで、葉子おばちゃんは三万円分くらいの威張りっぷりでふんぞり返る。

「私にだってね、五分の魂くらいあるのよ」

小さな魂に“70%OFF”と書いてある気がして思わず吹き出したら、テーブルの端の伝票がピラッとめくれた。

だけど、わたしとおじちゃんの生活が成り立っていたのは、葉子おばちゃんの協力あってのことなのだ。
昔から運動会も卒業式もなーんにも来ないくせに、三者面談とか進路指導とか、保護者必須のやつだけは

『だってタカ君、すっごく怒るんだもーん』

と言って来てくれた。
各種手続きも、恐らくおじちゃんがかなり手伝っただろうけど、きちんとやってくれていた。
それがなければ、あんな妙な共同生活はさまざまな方向から横槍が入ったに違いない。
もちろん、手もお金もかかるお荷物をおじちゃんがまるごと背負ってくれたのだから、そのくらいはして当然だけど。

「おじちゃんは、ぜんぶ『愛だよ』って言うんだよね」

葉子おばちゃんだけじゃない。
里中先生も、おばあちゃんも、山村さんも、それにおじちゃんのご両親も、おじちゃんに言わせれば“愛”なのだ。
そしてわたしもそう信じている。