アパートを飛び出したわたしは車に乗り、あてもなくうろうろとどこまでも走った。
上の空だったために赤信号を無視してしまい、クラクションを鳴らされてようやく危険に気づく。
そしてすがるようにコンビニの駐車場に車を停めた。

おじちゃんから移った熱はドキドキと、いつまでも冷めない。
ぶつかった瞬間はあちこち痛くて、正直なところ感触なんてまるで覚えていないのに、その事実だけは鮮明に、また剥き出しの傷のように心に残っている。

家を出ても、何年会っていなくても、わたしとおじちゃんの繋がりは変わらないと思っていた。
実際、おじちゃんに何かあればわたしは駆けつけるし、わたしが困ればおじちゃんは絶対助けてくれる。
領収書を渡されたのはさみしかったけど、それでも気まぐれにふらっと会いに行けば、変わらない笑顔で迎えてくれたはずだった。

全部壊れてしまった。

だからいつも言ってたんだ。
「おじちゃん、ちゃんとして!」って。
ちゃんと最後まで“家族”でいてくれたら、ちゃんと最後まで嘘をついてくれていたら、ちゃんといつもみたいに笑い飛ばしてくれたら、わたしたちはこれまで通りの関係でいられたのに。
おじちゃんは、本当に詰めが甘い。

情けなく床を這いつくばっていても、赤い顔を覆っていても、おじちゃんは確かに“男の人”だった。
驚いて早くなった鼓動の中に、違う音が響いている。
この気持ちは、あの家に持ち込んではいけないものだ。
もう二度と『帰れない』。

強い横風に車が大きく揺れた。
フロントガラスの上を乾いた葉っぱがザアーッと通り過ぎていく。
それは初めて会った日、おじちゃんの部屋の前に溜まっていたそれを思い出させた。

おばあちゃんは亡くなった。
葉子おばちゃんはどこにいるかわからない。
そして今、たったひとりの家族がいなくなって、さみしくて苦しくて息ができない。

母が死んでから初めて、わたしは天涯孤独になった。