おじちゃんは立て続けに何かを踏み外すことになるのだけど、最初のひとつを踏み外したのは三年後の秋のこと。

『今朝アパートの階段から落ちたの。左足首骨折だって。入院するからって着替えを頼まれたんだけど……』

一階に住む山村さんからそう電話がきたのだ。

『おじちゃんに何かあったら必ず連絡してください。いいことでも、悪いことでも。あのひと、絶対言わないと思うから』

そう言って連絡先を残してきたことが功を奏した。

「何やってんの?」

仁王立ちで現れた三年ぶりのわたしを、おじちゃんはポカンとした顔で見上げた。

「……なんで?」

「情報提供者については申し上げられません」

「ああ、山村さんか」

つぶやきは聞こえなかったことにして、下着や日用品の入ったバッグをロッカーにしまい、洗面具をベッドサイドの棚に入れる。

「……若葉、背伸びた?」

「伸びるわけないじゃない。おじちゃんがベッドにいるからでしょ?」

「いや、なんか雰囲気が……」

「ああ、髪は伸びたからね」

しばらく切っていない毛先を、指でつまみ上げながら答える。
小学生の頃は、お風呂場でおじちゃんが切ってくれていたものだ。

『よーし、できた! かわいい、かわいい』

揃えるうちにどんどん短くなったボブを、おじちゃんはそう言って褒めてくれたから、美容院に行くようになってからも、長い間そのヘアスタイルは変えていなかった。
今毛先は肩より10cmほど下にあって、入り込む光に明るく透けている。