やがて、私の白いマンションが見えてきた。
五階建ての鉄筋コンクリート製の、単身者向け集合住宅。
きちんと管理人が滞在していて、セキュリティ一がしっかりしているところを選んだつもりだ。
「ここが私の住むマンションなんです」と指差すと、主任は釣られて建物全体を見上げているようだった。
私と主任はどちらも何も言い出さなかった。
私は単純に、もっと彼と一緒にいたくて離れがたかったから、言葉を見つけられなくて困っていたのだ。
そして、どうして彼も黙っているのだろうと不思議に思う。
しばらく無言でその場に立ち尽くしていたけれど、先に沈黙を破ったのは主任の方だった。
「ここに来るまで考えてたんだけど」
と、彼が切り出す。
なんだろうと首をかしげて、彼を見上げる。
「俺と森村さんは、上司と部下でしょ。それで、今こうして一緒に君のマンションまで送ってきたけど、迷惑じゃなかったかな」
「え?どうしてですか?」
彼の言っていることがいまいち理解できなくて、さらには迷惑だと思っていると勘違いされてしまうのが心苦しい。
否定しなければと口を開こうとしたら、先に主任が言葉を続けた。
「森村さんは部下だから、送るよって言われたら断れないよね?なんか、俺の申し出を押しつけてるみたいで嫌な気持ちにさせたかなと思って」
パワハラ的なことを言いたいのだとようやく理解できた。
もうー!主任って意外と心配性!というか、鈍感?



