正味十五分の距離だけど、いつもひっそりと一人で歩く帰り道とは全然違っていた。
暗闇に、点々と外灯があるだけの住宅街。
これといった目立つお店なんかはないけれど、私は静かで気に入っている。
駅に出れば栄えていて騒がしいのも好きだった。
それに、好きな人が近くに住んでいるってだけで自分の住んでいるところがますます好きになった。
有沢主任は、キョロキョロと辺りを見回したあと人も車もあまり通らない道を眺める。
「ここは人通りが全然ないんだね」
「そうですね、この時間はほとんどないです。たまに車とかバイクは通ったりしますけど」
「女の子が通るには暗すぎるし、人が近づいてきても分からないね」
「……私、言われてみればあまりそういう危険意識とか持ってなかった気がします。これから気をつけます」
なにかと不審者や変質者が多発している地域だってあるわけで、ここがそうではないとは言い切れない。実際、一昨日はたしかにひったくりの犯行が連続して起きたというのは耳にしていたし。
直接的には言ってこないけれど、主任はやんわりと私にちゃんと警戒心を持つように言ってくれてるような口調だったから気づかされた。
「そういえば、あれから越智くんは大丈夫だった?」
思いがけない質問をされて、私はそんなこともあったなとぼんやり思い出した。
心の中が主任でいっぱいで、越智さんが入り込んでくる余地などなかったからどこかへ飛ばしてしまっていた。
「二次会でも声をかけられたんですけど、主任から本当に嫌なら断っていいって言ってもらえたから、なんとか切り抜けられました」
「それならよかった」
暗くて、主任がいつもみたいに笑っているのか、どんな顔をしているのかよく見えなかった。
だからと言って近づいて目を凝らすなんてことも出来ない。



