立川駅に着いてホームから階段をのぼり、改札を抜けた私たちはそのまま北口へと歩みを進めた。
人はパラパラと構内にも残っているが、みな家路を急いでいるようだ。
北口を出ると、冬の気配を感じざるを得ないほど冷たい風が頬を撫でた。
ほんの少し前まではまだ残暑が厳しかったような気がしていたけど、それはきっとだいぶ前のこと。忙しく過ごしていると季節がいつの間にか移り変わっていて、ついていけないのはいつも自分だけ。
ペデストリアンデッキは駅の構内よりもさらに人がまばらだった。
有沢主任に、私はぺこりと頭を下げる。
「主任、ここまでで大丈夫です。ありがとうございました」
私の住む高松町と彼の住む羽衣町は、近いといえば近いけれど方向的には別になる。ここで解散すれば私も彼も駅が中間地点になるし、ちょうどいいはずだ。
茜が「家まで送ってあげてもいいですよ」なんて言ってしまったから、主任が気にしていなければいいのだけれど。
余計な心配だったらしく、彼はあっさりうなずいた。
「こちらこそ、帰りの時間が楽しかったです。ありがとう。もう夜も遅いし、気をつけて帰ってね」
「あの、主任。今度のコンペ、私に出来ることなんて限られてますけど、足を引っ張らないように頑張りますので、よろしくお願いします!」
突然、コンペの話題になったからか主任はちょっぴり不意をつかれたような顔をしたが、大丈夫だよと聞こえてきそうな優しい目を私に向けた。
その目が、何度も私の胸を熱くさせてるなんて知らないだろう。
「足を引っ張るなんて、そんなことは絶対にないよ。頼りにしてます。よろしくね」
「主任も気をつけて帰ってくださいね。おやすみなさい」
「……おやすみ」
私が小さく手を振ると、主任は軽く会釈して踵を返して背中を向けた。
その背中が少しずつ遠くなっていくのを見送って、私もようやく歩き出した。
見慣れた街なのに、知らない街に来たみたいにドキドキして胸が弾んでいる。今日はいい日だったな。
たくさん交わした彼との会話の一つ一つが、私の頭の中の引き出しに大事にしまわれていく。
風が冷たくても、指先が冷えていても、全然気にならなかった。



