ハイド・アンド・シーク



電車を降りて、今度は南武線に乗り換えるために歩く。
私たちの周りの人もみな方々に散って、乗り換えの電車のホームへと急いでいた。

乗り換え時間は六分あるから、十分に間に合う。


ホームに降り立ち、空いているからとベンチに並んで腰かけた。
おそらく間もなく次の電車が来るはずだ。

いつの間に買ったのか「どうぞ」と彼は私に缶コーヒーを差し出してきた。
私がいつも飲む、微糖のコーヒー。もう一方にはブラックのコーヒーを持っていた。


「ありがとうございます。ご馳走様です」

「寒いからホットにしたけど、良かった?」

「はい、ちょうど飲みたかったところでした」


こういう風に自然にコーヒーを買ってきてくれるところも、また素敵だと思った。

ただの偶然かもしれないが、私の好きな微糖のコーヒー。
もしかして覚えていてくれたとか?いや、そこまではさすがに覚えてないか。

数分間のホットコーヒーのブレイクタイムが、私たちの身体を温めてくれるような気がした。


携帯の着信音が聞こえたのでコートから取り出すと、茜からラインが届いている。
タップして開く前に画面に表示されたものを読む。


『茜 : 万が一、主任にお持ち帰りされたら連絡ください』


ガバッと携帯を見えないように伏せた。
あまりにも不自然な行動に、隣に座る有沢主任が不思議そうな顔をした。

「どうしたの?」

「い、いえっ。なんでも……」

茜のバカ!不謹慎にも程がある!
もしも彼に見られたら最悪な内容だった。


「あ、電車来た」


主任が見つめるその先、暗闇の向こうから電車の明るい光が近づいていくる。
電車がホームに入り込むと、ぶわっと風が舞い上がった。