ハイド・アンド・シーク



「えーと、じゃあつまり、営業部の越智くんに出演を推薦されたと。で、松村も森村さんと仕事してるしよく分かるから、もう出演は決定事項だと言われたと。それで……、動画ではダンスをしなければならない、と」

「そういうことです……」

話をしっかり聞いて、要約する俺の言葉のひとつひとつにウンウンと力なくうなずく彼女は、さっきから泣きそうな顔は崩さない。
これだけ主張してくるのだから、彼女にとってはよっぽどのことらしい。

「……森村さんってダンスできないの?」

「運動神経は悪くないんですが、リズム感は皆無です」

「そもそもなんでその動画でダンスするの?」

「それは松村主任に聞いてください。なんか、親しみやすい雰囲気を出すにはどうするかってなった時に、素人のダンスが受けるんじゃないかって話になったみたいで……」

「え?じゃあいいんじゃないの、素人なんだし」

「私のダンス見たら絶対に主任も笑います!」


必死すぎる彼女を見ていたら、もう耐えきれなくなって吹き出してしまった。
ダンスにいい思い出がないのだろうが、ここまで嫌がる森村さんは見たことがない。

「笑わないで下さいよ〜。…もう!越智さんのせいで……」

ぶつぶつと文句を言う彼女の口から、越智くんの名前が出たら一瞬で現実に引き戻された。
彼はきっと森村さんに想いを寄せているからこそ、PR動画に出演するのはどうかと松村に提案したに違いない。

越智くんらしいといえば、彼らしい。


「分かった。出演を覆す約束は出来ないけど、一応伝えてみるよ」

「覆してください!会社中の笑いものになるのだけは嫌ですから!」

「……こんな必死な森村さん、初めて見た」

そう言うと、今さっきまで鬼気迫る表情だった彼女が我に返ったのかサッと身を引いた。
仕事の話になると大真面目な展開になることが多いが、今日はまた違った感じでとても新鮮だ。

身を引いた彼女の手を引いて抱き寄せると、森村さんは若干気後れしながらも俺にもたれかかってきた。