ハイド・アンド・シーク



食事をしたあと、当たり前みたいに俺のアパートに彼女が来て、順番にお風呂に入って、部屋に置くようになったスウェットに身を包んだ彼女がドライヤーで髪を乾かしている。

仕事の話ばかりになることもあるが、それは同じ会社の同じ部署だから仕方ないこと。
髪を乾かし終えた森村さんは、ソファーに腰かけてテレビを見ている俺の隣に座るとなんの前触れもなく

「PRプロジェクトの話、聞いてますか?」

と話し出した。

バラエティー番組に気を取られていた俺は、え?と思わず身体を起こして彼女を見つめる。
なんか、ものすごく思い詰めた顔をしていた。

「PR?あぁ、なんかちょっと前に常務が全体会議で言ってたやつかな。CMとは別に、若手だけで作り上げたもので会社をPRするっていう?」

「はい……。まずは手始めにタレントさんとか使わないで、社員が出演する動画をホームページに載せるみたいなんです」

「へぇ、そうなんだ。詳しくは聞いてなかったな」

あくまで若手の話だから、もう俺は中堅扱いであまり耳には入ってなかった。
主体はおそらく広報部だろうから、それこそ同期の松村あたりが監督して若手にやらせてる話かな。

のんきに考えていると、「主任!」と森村さんはいつになく真剣な表情で俺に詰め寄ってきた。


「あの……広報部の松村主任に、言っていただけませんか」

「なにを?」

「─────私、PR動画に出演したくないんです!!ダンス……踊れないんです!!」

「………………え!?」

初耳だらけのことを言うので、もう訳が分からなかった。
森村さんはやたらと目を潤ませていて、とにかくそのPR動画とやらに対する拒否感が凄まじい。それだけは分かった。