ハイド・アンド・シーク



「主任は嫉妬心とか、ありますか?」

ギクッとするような言葉を目の前に座る森村さんが言ったので、まさか心の声を読めるんじゃないだろうなとチラリと考えたが、どうやらそうではないらしい。

「どうして?」

「人材育成センターに同期がいるんです」


付き合い出して、二ヶ月経ったくらい。

恋人になった彼女は、想像していたよりももっと素敵だった。
家庭的で、ちゃんと自立した生活をしていて、だけど少し抜けている。危なっかしいところもあるけど、そこがまたよかったりする。

金曜の夜はたいてい二人で外食する流れになっていて、今日もそうだった。
森村さんはさっき届いたピザが熱いからなのか、取り分けのお皿に置いたままずっと食べていない。いつ食べるんだろう?

「その同期とこの間久しぶりに話したんですけど、センター内の先輩とお付き合いしてるみたいで。でもけっこう束縛が激しいらしいんです」

彼女の話を聞きながら、束縛も程度によるねと返す。
こちらはすでにピザは二切れ食べ終えてしまった。

「他の男性社員と話してるだけでダメってこと?」

「極端に言えば、そうみたいです」

「世の中にはいるんだね、そういうやつ」


……まだ俺はマシな方かも。と、ホッとする。

さすがにそれで嫉妬するとかは理解できない。でも、先週の飲み会で越智くんがずっと森村さんの話をしていたのは気になってはいる。

オフィスで仕事をしていても、なんとか話すきっかけを作ろうと越智くんが森村さんに話しかけているのも知っていたし、こそっとさりげなく彼女の肩に手を回そうとしているのも、実はちゃんと見ている。

こういうのがあるから、社内恋愛っていいことばかりじゃない。


やっとのことでピザを食べ始めた彼女を眺めて、この子は越智くんのような熱血タイプに気持ちが揺らいだりするのかなと疑問に思う。
俺みたいに、あまり浮き沈みのない性格は面白味に欠けるんじゃないかと。