ハイド・アンド・シーク



「俺もそろそろ彼女と結婚考えてやんないとなぁ」とつぶやく一人に対して、「俺も」と同調する数人。そして、さらに数人は左手の薬指に指輪をしていて、既婚だった。

「有沢は?彼女は?」

「……いない」

驚いたことに、このテーブルで正真正銘の独身彼女なしは俺だけだった。妙に肩身が狭い。
哀れみの目に囲まれ、いたたまれない。

「寂しい私生活だな、お前」

「ほっといてよ」

本当にほっといてほしかった。
営業課に異動してから、恋愛にうつつを抜かしている時間はほとんどなかった。


「増田みたいにさ、会社で探してみたら?でかいところなんだからごまんといるだろ、女性社員。いいなと思う子とかいないわけ?」

「いないよ。そもそも結婚相手を探しに行ってるんじゃないんだけど」

「まあ、そりゃそうだわ」

あはは、という酒とタバコの入り交じった笑い声を聞きながら、参ったなと密かに頭を抱えた。


ああは言ったけれど、もう俺の中には思い浮かんでしまう人がいて。
これじゃ、会社に彼女に会いに行ってるみたいだ、となんだか虚しくなりそうだった。


増田は、どうやって部下である彼女に声をかけたんだろう?
食事にでもどうか、って二人きりで出かけるところから始めたのかな。
だけど、そんな風に上司から声をかけたりしたら、部下だったら普通に断れなくて承諾するんじゃないか?

想像がついてしまう。
彼女が、困ったように笑うのが。

食事になんか誘ったりしたら、きっとそういう表情をしてうなずくに決まってる。嫌だと言えずに。
それじゃあ、ただのパワハラじゃないか。