二十代後半くらいから、やたらと呼ばれるようになった友達の結婚式や二次会。
冠婚葬祭の時にはしっかり休みをくれる会社なので、そのへんは助かっている。

その日に参加したのは、結婚式や披露宴は親族だけで粛々と済ませ、二次会から友人を集めたもの。高校時代の気心知れた仲間が、同窓会みたいにひとつのダイニングバーに集まった。


「久しぶり」「元気にしてた?」「いまどこに住んでるの?」という基本の挨拶はだいたい終わらせて、二次会の幹事を任された男女四人がなにやらマイクを通しながら進行をしてくれているのを、ぼんやり眺める。

東京からは車で約二時間弱で行ける距離の実家。
だけど、今の俺にはその二時間が死ぬほど眠かった。車じゃなくて公共機関にすればよかったと後悔するほどに。

隣にいた同級生に肩を揺さぶられて我に返った。

「ちょっと有沢!寝るなよ!おめでたい席で!」

「え?寝てた?」

「寝てたよ、たぶん」

途切れがちな記憶を奮い起こしていたら、目の前に座る友達がタバコを吸いながら可哀想な目で俺を見る。

「よっぽど仕事がハードなんだな。なんの仕事してんだっけ?」

「建築関係で、まぁぼちぼち」

説明するのが面倒で、適当に答える。

「建築?なんて会社?」

「鳥谷部コーポレーション」

「ええ!大手じゃん」

同じテーブルに座るのは、見慣れた男友達だらけ。
頑張ってんなぁ、と口を揃えて労ってくれた。

うちの会社は大手と言えば大手かもしれないが、最大手ではない。名は知れていて、CMソングなんかも口ずさめるかもしれない。でも、みんなが思うほど大企業ってわけじゃない。


披露宴で流したという、新郎新婦の馴れ初めDVDがさっき流れていたらしいのだが、俺には記憶がなかった。

「社内恋愛だったらしいよ、増田と奥さん。上司と部下だったんだって。部下をどうやって口説くんだろうな」

「え?そうなの?」

「有沢、DVD見てなかったの?」

「…………寝てた、のかも」

新郎新婦の席に座り、終始笑顔の友人・増田に心の中で謝る。
せっかく呼んでくれたのに、寝てしまうとは。申し訳ない。