そんな私から視線をそらしスッと椅子から立ち上がって歩き出した彼は私の背後に立つと、私を囲い込むようにして机に両手をついた。毛布しかない肩に彼の胸が当たり、開かれた漆黒の翼が覆いかぶさるように広がっているのが見える。

彼の吐息が私の髪を撫でた。


「おまえは誰も好きになってはいけないんだ」


耳元で囁かれたその言葉に喉の奥が詰まったような感覚がして言葉が出なかった。

そう、確かに私は少なからず告白してくれる相手のことを好いていた。友達以上の何かを感じていた。それを裏切るような形になり、その関係を諦めざるを得なくなり私はいつも落胆するのだ。

これまで出会ってきた相手の顔が脳裏にちらつき悲しくなった。


「それでも終わりを求めてあの鏡に足を踏み入れるおまえは一体何なんだろうな…?」


部屋の壁にある姿見。あれを通ると私はまた別の違う誰かとして生まれ変わる。いつか来る終わりを求めて、私はその1歩を踏み出す。

次こそは…次こそは、と。


「ほら、次の生が決まったみたいだぞ」


離れた体とその言葉にハッとして振り返ると、姿見がぼんやりと白い光を放っていた。その光に導かれるようにして私は毛布をバサリと床に落としてふらふらと姿見に歩み寄った。

なんだろう、今回はいつもと違う気がする…

その光がなんだか優しかった。誘われているような感覚がして立ち止まることもなくその光の向こうに足を踏み入れた。


「……もう来るな」


後ろからそんな声が聞こえたけど、私は振り返らなかった。