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「はあ…」


やっちゃった。また、やってしまった。


「おまえも懲りないな」

「…」


頭に被せられた毛布から顔を覗かせて机に向かう目の前の男をジト目で見上げた。その男は私には目もくれず紙切れに羽ペンで字をスラスラと書いている。

私は松村菜々子だったけど、今はもう違う。その前も別の人物で、その前の前も違う人物だった。

転生とは違う輪廻の中に私を囲い込んだのは紛れもなくこの男。彼は悪魔だ。


「まったく…機嫌を治せ」

「…あなたのせいじゃないですか」

「俺?」


毛布を体に巻き付けて立ち上がりながら非難すると男は笑い机の上にペンを置いた。

ここは彼の仕事部屋で、壁の本棚には本がびっしりと並び大きなベッドや姿見がある。窓はなく、ランプの灯りのみがこの部屋を照らし机の周辺以外は薄暗くなっている。

彼は悪魔…堕天使。


「俺は関係ないだろ」


ふっと笑いながら肩をすくめて頬杖をついて見下ろす彼の目には何も感じられなかった。光の灯っていない真っ黒な瞳でただただ見下ろされる。

眉間にしわを寄せて彼の目の前まで歩いて近づき机を挟んで対峙した。


「あなたが私がこんなことになっている原因なんですよね?」

「こんなことって?」

「いい加減にしてください!」


ドン!

しらを切る彼の目の前で右手で握りこぶしを作り机に叩きつけたがやつは瞬きすらしなくて悔しくなる。

いつもそうだ。平然と、淡々とした態度。張り合いがない。


「私を好きになってくれる人が現れても添い遂げることが許されないことです。そのたびにここに戻される…」


はあ、とため息をついて目を伏せると嘲笑するような声色で言われた。


「それのどこに問題がある?それがおまえに科せられた罪だろう」

「そんなの知りません!私がいつ罪を犯したって言うんですか!」


そう、私はとある罪を犯した罰として、告白されそうになるとここに戻され新しく生まれ変わりまた1からスタートする、という終わりのない転生を繰り返している。生まれ変わると記憶は全て無くなるけど、ここに戻るとこれまでの記憶も含め全てを思い出す。

今回は高校3年生までいったが、その前は6歳。その前は14歳、27歳…

寿命を全うしたことは1度たりともない。

苦しい。ここに来ることが苦しいのに…

毛布を握る左手に力がこもる。


「それは関係ないだろ。この転生も回数が限られているんだから我慢すればいいだけの話だ」

「あなたは当然知ってるんですよね?あと何回で終わりにできるのか」


名前も教えてくれないこの男に詰め寄るのはいつものこと。

あと何回?あと何回で終わるの?

でも、聞くたびにはぐらかされる。


「聞いても無駄だとわかっているだろう。俺も知らないんだ」

「そんなわけないじゃないですか!」


苛ついて叫ぶと顔をしかめられた。

だって知らないわけないじゃない。毎回ここに戻されるんだから。