その後はやはりいつも通りでかれこれ2時間は喋っていた。しかしヨハンもずっとこうしているわけにはいかず、ついにゼウに本題を持ちかけた。


「ゼウ。僕に鱗、くれる?」


実は鱗で作られた笛は、その鱗の持ち主であるドラゴンにはなぜかどこにいようが聞こえるらしく、それを嫌うドラゴンもいる。俺の場合はもう巣立ったヒアの邪魔をしたくないため吹く気はないが、ヨハンの様子を見ると毎日でも吹きそうな勢いだった。

ヨハンの珍しく窺うような物腰にゼウもその心情を真剣に受け止めた。


「1つ約束しろ」

「約束?」

「ああ。俺の鱗はもちろんやる。けど、本当に必要になったときにだけ吹け。まだ俺は体が出来上がってねえからここにいるが、いつかは巣立つときがくる。その後、俺は世界を旅して回る…そんときにピーピーやかましく鳴らされたらたまったもんじゃねえ。約束、もちろんできるよな?」

「う、うん!僕、できるよ」


ゼウはその後、ヨハンが18歳になるまで育成場に留まり、あっさりと別れを告げ巣立って行った。ドラゴンが人間と約束をもちかけるなんて前代未聞といえるほど珍しいことではあったが、それほどゼウは人間であるヨハンを信頼していたといえる。

しかしゼウがいなくなるとヨハンは次なるターゲットを探した。構ってもらえる相手を探しちょっかいを出した。そのちょうどいい標的がフォルテだった。彼女は裏表がなく、ヨハンのしたことに全力で怒り泣いた。それがヨハンの悪戯心を刺激しだんだんとエスカレートしていき、今のようにたちの悪い悪戯ばかりをするようになってしまった。

しかしそんな一方で、俺がドラゴンの調査をしに行こうとすると毎回ついて来た。ハサルと共に連れて行ってくれるドラゴンに2人で乗り込み、海やツンドラ、砂漠や火山地帯にも行きハサルに協力してもらい様々なドラゴンの記録を取った。

だいたいが中級のドラゴンだったが、ハサルの呼びかけに面白そうにやって来る上級のドラゴンもおり、あそこにはどんなドラゴンがいる、あの湿地ではこんな問題が起きていたなど、結構ドラゴン同士でも噂を信じたり情報交換しているんだな、と意外に思った。その話を聞いている間にヨハンがスケッチをし、ドラゴンに見せてはもっと美しく描けだの下手くそだのと言われていたが、笑いながら言われたためどれも実は褒め言葉だった。

そしてヨハンはそんな彼らにゼウの所在を聞いていた。話はまちまちだったが、どうやら死んではいないらしいとわかるとホッとしていた。人間に育てられたドラゴンが立派にちゃんと生活できるか追跡調査をしたことがこれまでなく、その記録も本としてまとめていった。

ドラゴンの生態についてはハサルにも聞き込みをし、俺たちは1年間で数冊の本を自分たちの手で仕上げた。その価値は誰にも見せていないためわからないが見せる気もない。2人で作り上げた最高傑作をよそにやるつもりもなかった。

…まあ、彼女になら見られてもいい。むしろ見せたかった。

こうして喜んでくれると思ったから。