「さあ、お2人方。それでは参りましょう」


実はこのとき、ヨハンはまだ自分のドラゴンをここに預けていた。7歳のときに卵を選ぶが子供がドラゴンの世話をできるわけがなく、14歳になるとそのドラゴンを正式に引き取ることができる。

さらに俺の場合は上級だったため室内で世話をすることができたが、ヨハンの場合は中級で成長も早くとてもではないが城内に入れることができなかったのだ。

その引き取る日…ヨハンとドラゴンが正式にパートナーとなる日がその日だった。


「ゼウ…彼にはすでに伝えてあります」


ゼウとはヨハンのドラゴンの名で、少し気難しい性格だがまだ子供だったヨハンに対する面倒見はよく、自分よりも小さい者を可愛がる傾向にあった。

可愛がるといっても天の邪鬼な性格で、乱暴な言葉遣いのわりにはやってることと違う、ということが多々あり、寂しがり屋のヨハンとの相性は良かったと俺は思う。


「僕、ゼウ大好きだよ」

「それを本人に仰ってあげてください。喜びますから」


きっと、迷惑そうにしつつも内心嬉しがるんだろう。

そしてゼウの竜舎に行くと、俺たちの存在に気づいたのか閉じていた目を開けてこちらを見た。だが、ここから先はヨハンしか近づいてはいけない。

ヨハンはこれからゼウから何枚か鱗をもらい笛を作らなければならないため、その儀式みたいなことが終わると晴れてパートナーとして認められるのだ。もちろん俺も笛を持っていたが、外に出す機会がないため使うことはなかった。


「ゼウ!僕だよ!」

「……変な声してやがるな」

「うん、声変わり中なんだ」


地を這うように低くゆったりとした声が響いてきた。薄水色をしたゼウの体は今は床にペタリとつけられ、ヨハンとその視線の高さを合わせている。

ヨハンはゼウの鼻先まで近づき、今度は右目の前に移動した。ドラゴンは側面に目があるため、真正面のものは見えづらくなりそこにヨハンが立つとゼウが不機嫌になるのだ。


「ゼウ、昨日で僕14歳になったんだ」

「ふん、たかだかそのぐらいでいい気になるんじゃねえ。俺はその100倍はこれから生きんだよ」

「うん、凄いよね!」

「ったく…嫌みも効かねえな」

「えへへっ」


ゼウとのやり取りが楽しいのか、ヨハンは終始にこにことしていた。本来の目的を忘れたのかと思うほどいつもと変わらない風景に俺とハサルは顔を見合わせる。

まあ、ゆっくりやっていても別に構わないんだが、ゼウが焦れていないか気になった。いい加減本題に入れ、って。