*ノイシュside*
10年前。
俺が17歳、ヨハンが14歳、トーレンが13歳だった頃。
そのときすでにトーレンは俺の後ろを雛のようについて回る見習い騎士だった。しかし、その当時は雛は1匹だけではなかった。
「ノイシュ!今日は何するの?」
童顔で女らしい顔つきのヨハンも一緒になって俺の後ろをついて来るため、いつも俺の周りは騒がしかった。ヨハンはこの通り、キラキラと目を輝かせて俺を見上げながらいつも何をするのか聞いてくる。
俺もそんな弟を邪険にすることができず、いつも仕方なく対応していた。
「今日は新しいドラゴンを見に行くつもりだ」
「やったあ!」
まだその笑顔にあどけなさを残しつつも声変わりが近いのかガラガラとした声をしていた。俺に似たのかヨハンも自分のドラゴンがいるというのにミーハーなのか他のドラゴンにも興味津々だった。
「お、お気をつけくださいヨハン様!」
「へーきだよ」
そして今も残る育成場に行き、周りの制止にも耳を貸さずズンズンとその新しいドラゴンに近づくヨハン。そのドラゴンは胸に大きな怪我があり、傷を癒やすためにここに連れて来られたドラゴンだった。
彼はそんなヨハンの行動に嫌悪感を示し、伏せていた体を起こしいきなり噛み付いて来ようとした。俺もそのときは焦ったが、調教師の1人が吹いた笛の音によってその動きを止め、グルグルと開いた口の奥で喉を不機嫌そうに鳴らしてまた寝そべった。
その鋭い目つきに怖気づいたのか、ヨハンは俺の背中まで走って来ると俺の影に隠れるようにしながらそのドラゴンを見つめた。
まだそのときはヨハンは俺の胸の辺りまでの背しかなく体格も細かったため、この生意気な小僧が!とドラゴンに無言で言われたように感じた。そのドラゴンは人間と話す気がないのか、人間の言葉をなかなか使ってくれず、調教師たちも頭を抱えているようだった。
その中で1人、唯一そのドラゴンが気を許す人間がいた。彼はレイドの父親であり、調教師の中では名の知れた人物であった。
「申し訳ありません、ヨハン様。彼は少々気性が荒く気高いドラゴンなのです」
「でも…中級だろう?」
中級といっても、平均的な大きさは地上2階建てほどの大きさは裕にある。それは目の前にいるドラゴンも例外ではなかった。
「中級でも下級でも上級でも、我らよりも遥かに自分に正直ですよ」
レイドの父親の名前はハサルといいあまりよく見えていないという右目を眼帯で隠しているため、彼をよく知らない者はそんな彼に好奇の目を向けた。
しかし、俺たち兄弟や調教師たち、ドラゴンは違っていた。


