「でも人間が好きなドラゴンがいるのは良いことだよね」
私がそう締めくくるとノイシュが口角を上げた。
「ああ、そうだ」
「でも、誰が行くの?ていうかノイシュはこんなことしてていいの?ヒアが無事に巣立ったから次の王様になる準備をこれからするんだと思ってた」
「別に俺は王になりたいとは思っていない」
「………え?」
これにはもう目が点になった。瞬時に理解できなくて反応が少し遅れた。
だって第1王子だし、ドラゴンを育て上げたし、ヨハンよりもカリスマ性があって仕事熱心で真面目なイメージなのに?
王様にならなくてもいい、と?
「だって、ヨハンが王様になったらどうなるかわからないよ」
「あいつは問題ない。伴侶さえ見つかればな」
「ええっ…意味わかんない」
ワインぶちまけてくるあのサイコパスのどこが大丈夫だって?あんなのの奥さんになりたい人、この世にいるかなあ…
「あいつは性格はひねくれているが、基本的に寂しがり屋だ。その寂しさを埋めてくれる者が現れればまともになると俺は思っている」
「何を根拠にそんなこと…」
だってパーティーのときあんなに怒ってたじゃん!私はもう過去のことで時効かな、とは思ってきてるけど、ノイシュはヨハンのことどう思ってるの?
「根拠、か。ヨハンの昔話を聞きたいなら話すがどうする?」
と、首を傾げて聞いてくるノイシュに私はうーんと唸った。
別に聞かなくていいかな、と思ってるけど、ノイシュがなぜか話したそうにしてるしここはとりあえず頷いておこうかな…
子供の頃のノイシュとディアンヌについても何かわかるかもしれないし、という思惑も浮かび、縦に首を振った。
「…聞きたいかも」
「ですが、その前に仕事を先に片付けましょうね」
"ですが"とわざと強調して割り込んできたトーレンを見ると、なぜかやる気満々に見えた。その様子に首をひねる。
「なんか張り切ってない?」
「これからどのぐらい追加予算が必要か改めて確認する必要がありますので」
ああなるほど、と納得した。個室を10個作れるめどが立ってきたから、また図面を書いて数字とにらめっこしたいらしい。トーレンも真面目の塊だなあ、と私は温かい目で見守ることにした。
そしてノイシュは鱗文字の解読と国事の処理、トーレンは食器を片付けて早速図面に向かったから私は暇になってしまった。
でも、ふっふっふっ、と内心ほくそ笑みながらドラゴンの図鑑に手を伸ばす。だって表紙からして中身はカラーだよ?どんなドラゴンの手書きの美麗なイラストがあるかもう興味津々だったのだ。
ゲームとかマンガとか、元々好きだったしね。
そして1ページ目を開いたらもう目を奪われて、呆れたトーレンに"いい加減にしてください"とべりっと引き剥がすように取り上げられるまで私は図鑑を片時も手放さなかった。


