「それならベルダム地区か。資金集めについて相談に乗ってくれるかもしれない」
「ベルダム地区?」
「ドラゴンの保護区に指定されている中で最も大きな地区でどの国にも所属していません。野生のドラゴンが多く生息する山脈があり、乱獲者から護っています」
「なんだ、そういうところがあるんだ」
「だが…良からぬ噂もある」
良からぬ噂。
それは、そのベルダム地区の役員が事故や乱獲で親を失ったドラゴンの子供を秘密裏に捕獲し売買しているというなんとも許し難い噂だった。
「なにそれ。どこからの噂?」
「さあな。信憑性に欠けるため誰も調査できずにいるのが現状だ。その捕獲したドラゴンというのも、保護区内のものか外のものかもわからない」
仕方なさそうに肩をすくめるノイシュだけど、彼のことだから腸(はらわた)の中は煮えくり返っているのかもしれない。私もその噂については放っておけないと思った。
もしヒアがその地区に棲み着いて万が一にもその捕獲対象にされたらたまったものではない。
「でも探ろうにもこっちも卵を盗んでいるわけだし、深入りしても鼻で笑われそう…」
他人のことを棚に上げてなんとも物騒なことを仰いますね、なんて言われたらぐうの音も出ない。
私が元気なくそういう言うとトーレンも唸った。
「うーん…しかし、私たちはちゃんと野生に返しています。ですが、調教師も雇ってドラゴンを実質囲い込んでいるわけですし反対者がいるのも事実です。育成場はあくまで子育ての場と子供を成長させる場を提供しているわけですから、そこが気に入らなければどこへなりと飛んで行けるように個室の出入り口に柵は元々作っていません」
「へえ、そうなんだ。鳥の巣箱みたいだね」
「はい、全くのその通りです」
笛を持った調教師がなぜいるのかというと、親がいなくなり保護された子供を安全に外に連れ出すときや、餌の時間を知らせるとき、何か問題が起きてそれを伝えるときなどに、的確にこちらの意思を伝えられるようにするためで合図のときに笛を使うイルカの調教師とはニュアンスが違うようだった。それこそ、育成場にいるドラゴンたちの友、仲間、みたいな。
あと、言葉以外で意思疎通をするときに笛を使うらしい。笛を使う方が広範囲に的確に伝えられるそうだ。
「調教師も素質がある者しかなれませんし、ドラゴンにも好みがありますから、全てのドラゴンと心を通わせられる者は限られています」
「…レイド、って人のこと?」
「はい。レイド様こそ、全てのドラゴンと意思疎通ができる方です」
だから王宮に部屋を持ててレイド様、なんて呼ばれていたのかと納得した。じゃああの人が乗ってた黒いドラゴンは…?
「あの黒いドラゴンはどういう関係なの?」
「あれは完全にレイドを主として認めたやつだ。彼以外の者には耳を貸さず、完全に野生を捨ててしまった」
野生を捨てた。
狼がだんだんと犬になっていった感じ、なのかな。友とも仲間とも違う、完全にレイドを格上の存在として認めてしまったドラゴン。
言葉遣いも子供っぽかったし、思考も幼稚だったから見た目は大人だけど中身は子供みたいな感じに育っちゃったのかな。彼の命令には絶対服従するあのドラゴンは他のドラゴンからも忌み嫌われているらしい。
レイドがいる手前その態度は表には出さないけど、裏では嫌われ者みたいで、飼い慣らされておまえにドラゴンとしての誇りはないのか、と仲間外れっぽくなってるそうだ。


