でもこのままだと完全に、詰み、だよね。
調べてもあまり意味ないんじゃないかな、と思うけど手帳のことを言えるわけもないし、手がかりもいつ帰って来るかわからない。
それなら、今は別のことをするべきだと思う。
「そう言えば、ほら。育成場のことは進んでるの?」
私が何気なくそう言うとトーレンが"げっ"という顔をした。え、なに、何かマズイことでも言った?
ノイシュはそんなトーレンをちらりと見てから私を見た。
「……進んでいると言えば嘘になる」
「いえ、その、あのですね…!」
物申すとばかりにトーレンが焦ったように口を開きパクパクとさせているけど、ノイシュはそれを完全に無視した。
なんだろう。やっぱりまだ和解してないのかな。
「なんだ」
ノイシュの声はまだ低い。
「あの、予算があればノイシュ様の意見は快く承諾できるのですよ」
「おまえに決定権を与えた覚えはない」
「それはそうですけど!維持費も考えるとなかなか難しくてですね…!」
椅子の肘掛けに頬杖をついてトーレンを眺めるノイシュの瞳は冷たく燃えており、そんな彼の様子に部下はビクビクとしつつも譲れないのか断固とした意志があるようで、双方拮抗した雰囲気が漂っている。
なんか結構裕福な国だと思ってたんだけど、お金に関してはシビアなところがあるのかな。
「それなら協賛者を募ればいいのに」
ぽつりと私がそんなことを漏らすとぽかんとする2人に見つめられた。
はあ、とその様子にため息をつく。
「だってそうじゃない?国内で賄うことができないんだったら、国外にいる同じ志の人からお金貰えばいいんじゃん。探すのは大変かもしれないけど、ドラゴンの数が減ったことに心を痛めている人は少なからずいるはずでしょ」
言うなれば株みたいなもんだ。
投資をすることで未来に起こり得る見返りを想像し夢を膨らませる。ドラゴンの保護だったら…どんな利益があるのか今はパッと出てこないけど。
ドラゴン自体神聖な存在だから人間が世話をするなんて断固拒否!という人がいても、軍事利用ではなく保護のため、と知ったら考えを改める…はずだし。
私だってヘイト村のことがあったから軍事利用してるんだと思ったけど、後で聞いたら違ってた。
"ドラゴンはストレスを抱えやすくデリケートだ。たまにそうやって仕事を与え息抜きをさせている。あまり閉じ込めていても暴れ出してドラゴンも人間も危険だからな"
だそうな。ノイシュはドラゴンに対しては紳士的な態度だし、最初はもっと冷酷な人なのかと思ってたのにわりと温厚な人でトーレンにはホント、最初の頃に変なことを口走ったなと思う。
殺されかけたのはまあ…あれはトーレンの本心でもなかっただろうし。ちょっと尊敬の度が過ぎてる気もするけど。


