「本当は自分のことは自分でやりたい性格だから付き添いだけでいいからね」

「やはりお部屋の掃除はご自身でなさるおつもりですか?」

「文句あるの?」

「い、いえ…そう言うわけでは…」


口をもごもごとさせるトーレンの横をすり抜けて廊下に出て部屋の鍵を閉めた。元々鍵なんて無かったんだけど、工具セットを持ったトーレンが押しかけてきて拒否する間もなく取り付けられたから仕方なかった。でも手帳の存在を隠せると思い鍵はやはり必要なのだ、と考え直した。

鍵は私とノイシュだけが持っており、なぜかノイシュの方がマスターキーだと知り、そのことだけがいかんせん意味がわからなかった。

もうなんなんだろうあの男は。急に私を囲い込むような行動に出るなんて。おかげでトーレンとばかり仲良くなってレイドという男についての情報がなかなか集まらないじゃないか。まあ、彼がここに帰って来るまで仕方ないんだけどね…


「もうトーレンにはディアンヌを偽らないことにしたからいいでしょ?」

「まったく、あなたって人は…」


並んで歩きながら口角を上げて右隣を見上げると、彼は前を見据えたままため息をついた。こうして隣を歩いてくれる彼は優しさの塊で、いきなり図々しくなった私の態度に困惑しながらもちゃんとついてきているあたり、やはり優秀な人なんだろうな、と思う。

優秀というか、優柔かな?


「はい、着きましたよ」


しばらくして連れて来られた部屋に私は首を傾げた。


「ここは?」


いつもとは違うところに連れて行かれてることはわかってたけど、隣で何食わぬ顔をしドアの前に立って私に視線を向ける彼にあえて聞いてみた。

トーレンは今度は明後日の方向に視線を向けた。


「…今日からこちらでお食事をなさってください」


コンコンと2回ノックしトーレンが入って行った部屋はノイシュの執務室。なんで、とずっと頭の上にハテナマークを浮かべていたつもりなのに、彼は生意気にもそれを無視して私を置いてけぼりにしようとした。

前を歩くあの長ったらしい足に膝カックンでもしてやろうかと息巻いて、私が入るまでドアが閉まるのを手で制することもせずさっさと歩いて行くトーレン目掛けて部屋に入ると、いきなり目の前にヒアが飛んできて慌ててその場にしゃがみこんだ。